† 一の罪――堕天使斯く顕現す(弌)
冬を目前にした街。行き交う人々は皆、どこか急かされているようだった。
「しっかし、天下の執政官様の力を前に、たてつこうって輩がいるもんなんすね」
「力で獲得したものは、力によって奪われるものさ。ほら」
多聞さんが指した、ビルの最上階の窓に視線を注ぐ。常人なら気づくはずのない距離だが、過酷な実験と訓練の末に完成する俺たち妖屠は、殺気を見逃しはしない。
「……人間を撃つのは罪悪感があるけど、こういうときに備えての副武装だもんね」
「まあ俺は殺すって決めたらデスペルタルもガンガン使ってくけどな。要は標的を仕留めりゃ口封じはいらねー」
銃を取り出す三条を尻目に、相棒を起動させた。
「効率主義者なのはいいけど、人払いの結界も自分で張ってくれるようになったらおじさん嬉しいなー」
「さーせん。でも――――」
三条に二人が撃ち抜かれ、残った数名が即座に死角へ身を潜めたが、逃がすつもりなどない。
「敵の殲滅を優先しちゃうのが癖なんすわ。昔、それで後悔したことがあって」
駆け出した俺は、バス停の屋根を踏み台に跳躍。足元に魔法陣を生じさせ、爆発的な上昇で最上階へと達した。
ガラスを突き破って飛び込み、着地と同時に宙返りで、出会い頭の銃撃を躱す。
「な……ッ!?」
唖然と立ち尽くす最寄の一人を斬り捨て、死体が倒れるより早く、身を翻しざまに次の男へと刀を投擲した。
「こっ、こいつ人間か……?」
貫かれた仲間を流し見つつも、最後の刺客は発砲を止めない。壁を駆け上がりながら銃を手にすると、対人の実弾に切り替える。
「まむぅッ!」
さすがに空中からヘッドショットは敵わなかったが、右腕を吹き飛ばされて、男は尻餅をついた。
「めへめへ……ななななんでも話す! いっ、命だけは――」
「命以外も強欲に望んだゆえの結果だろうが」
告げ終え、銃声が木霊した直後。
「なァにイキがってんだザコが。はんっ、三人ぶっ殺すのにどんだけ時間かかってんだよ」
吐き捨てるような太い声に、俺は耳を疑った。
(……!? いつの間に――――)
反射的に身構えた先にいた偉丈夫は構えてもいないのに、その圧力が続く動作を許さない。