† 十八の罪――地獄元帥(肆)
火力の衰えた得物を杖に、桜花が呆然と見つめる先には、進路の隙間を押し潰すようにして迫り来る巨躯。
「まさか、こんなに…………」
三人の部下は成す術もなく喰われ、彼らも燃料と化した。隊長だけあって、粘り続けているものの、打開策を見出せないまま力尽きようとしていることには、彼女も変わりはない。
足の鈍った桜花へと、槍衾さながらに毒針の雨が殺到する。
「だめ……魔術は効かない」
もはや迎撃する手段も、余力も彼女にはなく――――
「魔術が効かないんじゃなくて、使い手が弱いだけに見えるが」
一閃。桜花が蜂の巣にされようという寸前で、悉く弾幕は叩き落とされた。
「まあ腐蝕でどうにかなるようなたぐいとも思えぬがな――ひとつ聞くが、その炎とやらは人知をこえた高温じゃったのかね?」
怪魔の大群を殲滅し終えたのか、少女の横に小さな相棒が立っている。
「ベルゼブブ!? もうかたづけたんだね」
思いがけない援軍に驚きつつも、彼女は頬を緩ませた。
「……でも大丈夫? 飛べなくなるぐらい魔力が――」
「心配しとるばやいか。そんなもの、あとにせよ」
「いや、あともなにも……もう今のぼくたちじゃ…………」
肩を落とし、おおげさに嘆息を吐くベルゼブブ。
「どこぞのうつけもほざいておったろう。よくもわるくも、あきらめがわるいのがそちであると」
「そんなこと言われたって、あれは全身を防護障壁で覆ってて、魔術は通用しないし、斬り刻んでも再生するんだよ――核がわからないかぎり、このままじゃやられるのを待つだけ」
力なく敵影を見上げ、桜花が零す。
「まったく、少しは成長したと思ったやさきにこれとは……先が思いやられる。核がわからぬ? ならば、まるごとやきつくすしかなかろう」
「君だって、今の状態じゃ――」
「そちといっしょにするな、小娘が! 吾輩が地獄元帥だとゆうことをわすれたか」
見違えるようなオーラを具現化したかの如く、その小さい身体が猛烈な高温を発しだした。
「ベルゼブブ、なにを……?」
「すこしは役に立つのじゃ、公爵――――」
ゆらめく紅焔を身に纏い、彼女は呟く。
「そ、それは……ッ!?」