無論新法に対して抵抗運動を見せる健常者層は存在したが、その反抗も虚しく運動家達は厳罰の前に敢無く駆逐されて行った。政府への抵抗者は容赦無く投獄される為、従順な一般人達は国家的圧力の前に屈服し新制度を受容する道を選ぶ。
そして対人恐怖症等の病弊を抱えた幾万の民草は、この特殊な新法の生誕に由って思わぬ社会復帰の光明を得る。彼等は想像だにしなかった一新の機会を得る事で、自ら仮面を装着し進んで外出を始めたのだ……。
精神病者達が本来的な一般生活に回帰すると、政府の目論見通り社会機能は飛躍的な回復を見せた。そして世界は有史以来前例に無い程の恒久的な安寧秩序を獲得し、中枢たる電脳都市インダーウェルトセインは益々の隆盛を極め現在に至る。
……因みに電脳仮面制度の制定から始まった社会性の変遷を指し、こんな都市伝説の様な噂も世間では流布されていた。
『その時代の病理を電脳仮面制度と言う画期的発案から解決した事で、政府は謀らずしも社会機能と人心を完全に掌握したのではないか……?』と。
現代と成っては、誰もがこの電脳ヘッドギアを当然の如く生活の指針として活用している。最早これは自身の素顔を隠蔽する為だけの仮面では無く、最先端技術の恩恵を浴する全能型生活支援装置……、もう一つの不可欠な頭脳なのだ。
例えばヘッドギアの電脳を介し、ネット機能を連携させ作成された生活予定表を閲覧し日々の行動を取る。何事かの調べ物を百科事典の要領で情報を引き出す。内部電脳は電子鑑札も兼ねるので、相互の認識番号を赤外線通信で照会する事や身元記録も出来れば、電子マネーでの買い物取引等も可能だ。電話やメール等一連の通信機能としても活用出来る上、他には地図表示、音声や映像の記録、テレビ、ラジオ、音楽、映画等の鑑賞等、放送媒体迄もヘッドギア本体のみで事足りる……。
……この様に、現代では誰もがそんな多機能を持つヘッドギアの恩恵を授かっている。例え素顔を晒す事が合法に成り得たとしても、今更誰もこの快適さから脱却したりはしないだろう。
素顔の隠蔽、電子監察、ヘッドギアテクノロジーの利便性。これ等の相乗効果に由って、この仮面が人民の個人性を剥奪している事は紛れもない事実だった。
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