画一されていると言う事は個々の役割が存在しないと言う事。
誰の生死が在っても頓着せず世界は進行し続ける。
世界を構築する者は誰でも良く、誰でも有り、誰でも無い。
僕は只の記号。
僕は透明な存在。
他人は只の記号。
他人は透明な存在。
他人と比較しなければ、僕は自己確認が出来ない……。そうだ、他人こそは自分の鏡。そして、僕もまた他人の鏡……。
……そう暫く物思いに耽っている時だった。
混雑の中で立ち尽くす中、不意に或る衝動が僕の胸を強襲した。
ヘッドギアを介した視界に広がる目抜き通りでのパレード。
その光景を傍観している内に、こんな甘美なる囁きが脳裏を去来
したのだ。
『奴等は特例組じゃあないのか?』
祝祭に於いて、仮装の為にヘッドギアの着脱が特例として政府から容認された劇団……、否、若しかしたらこの劇団の連中も政府から派遣された局員と言う可能性も在るが……。
どちらにせよ、この一群は覆面や仮装で薄皮一枚と言う状態に危機感も抱かず、観衆へ愛嬌を振り撒き街路を行進し続けている。
この事実を察知しただけで、何故か油溜まりの様に粘着質で鈍重な背徳感が内心から湧出して来るのだった。
そんな惑乱の刹那、楽隊の生楽器に由る原初的な演奏とは似つかわしくない、機械的で軽快な着信音が鼓膜に響いた。ヘッドギア内部のディスプレイに新規メールの通知が丁度二通表示される。文章、音声、通信者側の映像が三分化されつつ、同時に読解と視聴が可能なインターフェイス。誰からの連絡か、視線認識と音声認識機構で差出人や件名を確認する。
「誰からのメールだ?」
反射的にヘッドギアの内臓音声が作動し、文面と音声で質問に対する開示が為される。
「一件目ノ再生。配信者、インダーウェルトセイン政府カラノ直属メールデス」
『就労先通知』
『拝啓 インダーウェルトセイン政府より、時下益々健勝の事と慶び申し上げる。さて厳正なる選考の結果、貴君の勤務配属先が決定した。
・就労分野……「コンピュータ事務」
・勤務地……「セブンスプラスティックトゥリーヒルズ・ゲートタワー内部」
・勤務時間……始業(8時30分) 終業(19時00分)
・休日……定例日毎週日曜日、祝日
・基本賃金……月給200000ペッソナ
・社会保険加入状況(厚生年金、健康保険、厚生年金基金)
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