4月付けから、貴君も誇り高きインダーウェルトセインの忠実にして誠実なる労働市民だ。インダーウェルトセイン市民として勤勉な態度を旨とし従事せよ。模範市民と成る様な貴君の精励、社会的貢献に期待している。 敬具』
「二件目ノ再生。配信者896501756カラノメールデス」
『久し振り……。今、どこにいるの? あの後から何となく連絡しにくかったけど……。これで終わりって事じゃないよね?
今日のパレードは一緒に観たかったな……。この前貰った指輪は、何時も大事に着けています。良ければ返事を下さい……』
ふっと全体の映像が消失し、ディスプレイは受信画面に戻る。
暫しの間、放心状態の自分が居た……。
先ずは一通目のメール。僕の半生は、余りにも安易に巨大な権勢に由って決定付けられた。
現在の政府は整備され、透明な管理社会性を徹底している。決定される配属先の環境や給与条件等も、誰からも不平不満が噴出しない様に平等性を遵守しつつ厚遇を敷いているものだ。実際僕から見ても、決定された業務や提示された労働条件に対して何ら不満を挙げる余地が無い。厚生省の人事部も、当事者の過去の経歴や学業成績、嗜好等も分析し資質判定をしているのだろう。
そして二通目のメールは、彼女から和解を持ち掛けて来る様な内容だった。ここで僕からも儀礼的な謝罪をし、打ち解けて行けば容易く交際関係は修復する筈だ。時期が過ぎれば、何事も無かったかの様に全てが平穏に収束して行くだろう。
それは人生の美観だけを切り取った、絵空事の映画の様に……。
政府から提示された配属先に関して、取り立てて不満は浮かばない。だが自身がその業務へ従事して行く人生を想像した時、燃え立つ様な充実感を得て日々へ向かえるか、つい鑑みてしまう。自問自答すれば、傾注する程の情熱は湧かない、と言うのが正直な心境だろうか。
ともあれ、今の僕に確固たる展望は無い。それならば将来の就労も対人関係も、この侭大勢に押し流されて行けば無難に人生は過ぎるのだろうが……。
<―大勢に押し流されて行けば……?>
<―これからの自身の未来さえも他者に委ねて……?>
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