通信画面を透過して、眼界に拡がる様相を一瞥する。街区の熱気は途絶えず、劇団は変わらず祝祭の主役として行進し観衆を盛り立てている。僕はと言えば、その空間へ馴染まずに遠巻きから傍観しているだけだった。そして、何故か先程からの妄想には拍車が掛かるばかりだ。
(……例えば、連中の誰かが道の往来で不意に転倒してしまう。そこで思わず仮装や覆面が肌蹴て、当人は公衆の面前で自分の素顔を曝け出す事態に陥る。当然、観衆は一斉に注視する……。
そして次の瞬間には一大事と為り、現場は大騒動へと発展するのだ。僕は群集の一部に混じりながらも、内心ではそんな混乱にほくそ笑む……)
そんな悪しき想像の虜に成って呆然と立ち尽くす自分が居る。
(何を考えてるんだ! 止めろ、馬鹿な考えを起こすな!!)
苛烈に湧き上がる犯罪衝動を抑制しようと、僕は自分自身へ必死に言い聞かせた。
そして意外な事に、道端で俯いた侭の僕を見遣っても誰一人振り返らず通り過ぎて行く。傍目から見れば挙動不審かとも思ったが、群衆は現場の熱気に浮かされ昂揚を隠さない。パレードの享楽に耽っている者達が、一介の通行人の様子に気を留める事も無いのだろう。
―思い詰めた自己との葛藤……。
……どれ程の逡巡の経過が在ったのか、気が遠くなる程に長大な様で、瞬きの様な一瞬にも感じられた。
しかし遂に、僕の甲斐甲斐しい理性と言う抑止力は足蹴にされた。
僕の名前は今、「衝動」に成り変わる。
丸で自分以外の何者かに突き動かされている様な狂熱に全身を包まれ、視界が非現実感に満ち始める。眼を逸らした訳でも無く、只定位置で立ち尽くして居ただけなのに、眼前の情景が曖昧にぼやけ様変わりした様な違和感。
胸奥が不穏にざわついている。しかしそれと同時に、これから起こす大事へ武者震いする様な不敵さも根底では息衝いている……。丸で熱病の中、自身の内部が無数の人格に成って遊離している様な複雑な心境だった。
僕は管理画面のホスト端末へ、これ迄に取った事が無い程の高圧的な調子で呼掛ける。
「さっきのメールへ返信だ」
「了解致しました、メール画面に移行します」
言うが速いか、即座にメールの通信画面が眼前に表示される。確固たる文面や口頭での内容等、練られてもいない筈だった。しかし僕は丸で予め台本を用意していたかの様に、思いの丈を流暢に紡いで行く。
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