「御日柄も良く、崇敬なる糞っ垂れのインダーウェルトセイン政府様。私は国籍番号742617000027番。本日『セブンスプラスティックトゥリーヒルズ・ゲートタワー』に永久就労が決定した一介の男性です。さて、不躾ですが早速本題へと入りましょう。
……私は貴兄等の崇高な理念と治世に拠り決定された強制労働を、丁重にお断り致します。
―想えばいつからか、僕は僕の存在の実証性の無さが怖くて堪らなかった……。先進的で在るとされるこの社会の一視同仁な平等性が、いつしか個を排除する悪平等だと感じ始めた。
あんた等のやり方が悪政なのか、僕が異常なのか、それは未だ解らない……。只、僕はたった独りの、個人に由る独立宣言を此処で宣誓する。
僕は僕の生まれた意味を、価値を掴みたい。僕は僕の生存理由や生き甲斐を、自分自身の手に由ってこそ創り上げたい。ベルトコンベアの工程に載るのでは無く、この眼で物を視て、この両足で道無き道を拓きたい。己だけの生きる証、生きた証を手に入れたいのだ。
僕は僕が何者なのか自分でも解らなくなってしまっていた。否、その不在を自覚し、意志を持とうとする時からが真の人生の始まりで在るのかも知れないがね……。
無色から有色へ僕は変わる。僕だけの色で、この世界を塗り替えて見せる。今から始まる情景から目を逸らすな。捕まる事等最早僕は厭わない」
「……896501756―。今迄僕と付き合って来てくれて有難う。やり直そうと言ってくれたメール、君にも勇気が要っただろうし嬉しかったよ。只……。僕はもう頭のネジがぶっ飛んでしまったんだ。社会から食み出る異端者に成ってしまう一歩手前だ。
『自分を出す』とはどう言う事なのか? そもそも自分とは何なのか? 単純な様で堂々巡りを繰り返すこの問いに、僕は独り延々と囚われていた。
今迄何も築き上げて来なかった僕が居る。確かな物が何も無い、無為に流されて生きて来た僕が居る。自分に確固たる足元が無い人間が、自分を好きになれる筈も無い。自分が好きになれない侭では、他人に対して心を開いたり、好きになると言う事も難しかったんだろう。だから僕は、君にさえ胸襟を開いて接して来れなかったんだと想う。否、開くだけの心が元々無かったんだ。
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