最後の思いの丈だけは、君に伝えて置きたかった……。今からが人生の真の始まりだと僕は息巻いている最中だ。これから起こす行為は、どうあっても世間からは非難される事だろう。
でも反社会的だろうと、もうこの衝動は止まらないんだ。僕が投獄される前に、君へ迷惑が掛からない今、はっきりと別れを告げて於こう。
僕の事なんかは忘れて、君は君の人生に踏み出して行って欲しい。―それじゃあ……」
一気呵成に喋り倒すとその声明は自動的に文章・音声化され、遠方の該当者達へメールとして発信された。発信完了画面を観て、不安の胸騒ぎと戦意の高揚とが入り混じる。役所の人間達はこのメールを受信したら悪戯とでも取るだろうか、それとも憤慨して直ぐ様機動隊でも派遣して来るだろうか?
彼女は別れ話しを持ち掛けられる以上の不穏な声明に、僕の気が触れたとでも思うだろうか。一応也とも付き合って来た男の頭が可笑しくなった、と。それとも不謹慎な冗談だとか、迫真の演技で謀ろうとする僕なりの報復だとでも誤解するか……。
彼等の解釈がどうあれ、今から件のメールが犯行声明だったと証明する為に僕は歩を進めた。余りに退廃的で甘美な、犯罪の衝動に突き動かされて。
「アアアアアアアアアアアアアッ!!」
僕はパレードの喧燥を掻き消す程の咆哮を上げた。観衆の誰もが一斉に振り返り、何事かと唖然としながらも僕と言う一点に視線を集中させる。しかし僕は怪訝の色に満ちた注視等は意にも介さず、並み居る群集を両手で乱雑に掻き分ける。そして遂には熱気に包まれた分厚い人波に穴を開け、道中を行く仮装行列の連中に迄走り寄り……、躊躇無く掴み掛かった。
呆然とする観衆と仮装者達……。特に標的を定めていた訳では無かったが、偶々自分の眼前に入った道化の仮装者を手始めの獲物として決めた。
僕は何の逡巡も無く、世界の不文律に、掟に、隠蔽された秘部に、人間の存在証明に手を伸ばす。掴まれた仮装者は一片の抵抗も無い。不測の事態から、反射的に防御する事すらも覚束無かったのだろう。法律制定有史以来、こうして禁忌を犯そうとする者も皆無だったのだ。世界の人民誰もが想像もせず、身構えもして来なかった反社会的行為に……。
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