一拍を置いてから事態の深刻さに気付き、打って変わって必死に制止しようと幾人かが現場へ雪崩れ込む。祝祭の主役たる劇団員に突如暴行を加えようとする所か、強引にでも仮装を剥ぎ取って素顔を暴露させ様とする、そんな僕の逸脱した意図を察知した様子で。
切迫した声調で飛び交う言葉の数々が、僕の脳裏で反響していた。しかしそれは何処か遥か彼方で交わされている会話の様で、丸で僕を論点にしていない錯覚迄起こす様な浮遊感が伴っていた。潜水している中で外界の反響音が脳内に迄到達して来る様な、非現実的な感覚の侭周囲のやり取りは輻輳して行く。
「何をする気だ、止めろ!」
「皆、早くこいつを取り押さえてくれ!」
「精神異常者だ!!」……。
一般の通行人達も勃発した騒動に動揺の気色を隠せない。全員がその足を止め、遠巻きに異例な光景を見詰め出した。何事か事態を把握し切れてない者、固唾を呑む者、思わず嬌声を上げる者とが入り混じる。
しかし緊迫しざわつき出した周囲の様相に反して、僕の心は沈着さすらをも取り戻して行く。
そう、内奥に住まうもう一人の僕が語り掛けて来る。
<顔を見せ合わない世界のどこに健全さが在ると想う?>
<異常なのはこいつ等の方じゃないのか?>
ああ、そうさ、その通り。僕は仮面を脱ぎ捨てよう。上辺だけを着飾った、退屈な仮面舞踏会を打ち壊す為に……!
僕が組み敷いた相手は、身体付きや抵抗の膂力から自然に男だと
感じ取れた。彼も自身の人生を固守しようと必死なのだ。そこで僕の深奥からは益々愉悦が溢れ出る。
そうだ、それで良い、お前も抵抗するんだ……、『自分』自身の為に。
ふと、僕は我へ返るかの様に諸手の取り合いから戦線放棄し、無言の侭その場で立ち上がった。
一瞬の静寂。
異常事態の収束かと感じ誰もが思考停止したのだろう。僕は穏やかに微笑みながら(勿論その微笑は誰にも観えないものだが)、自身のヘッドギアに何の躊躇も無く手を掛けた。
そしてあっさりと頭部から取り外したそれを、人工的な程清潔に舗装された路面へと、全身全霊を籠めて叩き付けた……!!
次の瞬間、周辺へ盛大に飛散するヘッドギアの機械部品達。同時に衆目から、きゃあっと言う絹を裂く様な金切り声が反響する。そして次の瞬間には民衆の怒号が巨大な音塊と成り、広場全体を震動させるかの如く劈いた。
―大混乱の中、市民の視線が、僕へと一身に注がれる……。
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