パレードの中、大路は多数の見物客で賑わっていた。素顔を開陳した男性は気の触れた様な哄笑の中、都市名物開催時の一環として公用可能な馬車へ乗車し、単独での逃走を謀ったと言う。
偶然現場に居合わせた目撃者達は『まさかこんな事件が起きるとは…』『眼前の光景が信じられず、動く事も出来なかった』等と地元メディアの取材へ対し口々に受け答えている。
容疑者が現場から逃走した後も遭遇した見物客達は衝撃の余り立ち尽くし、後から騒乱を見聞きした野次馬達も詰め寄る等して人だかりは増大する一方だった。現場へ続々と警備員や警察が駆け付けるものの、容疑者は既に消息を絶っていた模様。豪奢にして壮麗な都市を挙げての祝祭が一人の男性の発作的犯行に由って打ち壊され、騒然とした雰囲気は暫くの間余韻を残していたと言う。
カーマ警察等から公開された情報に拠ると、男性は犯行を決行する直前に、警察機関へ犯行声明らしきメールを送信していた事が記録から判明。その他に、ほぼ同時刻に交際関係を築いていた女性へも犯行への決意を仄めかす伝言を送り届けていた事が調査済みだ。
容疑者への批判は当然だが、事件を予見し未然に防止出来なかった警察機関及び事件に関連した主催団体、民間警備会社の不備にも非難の矛先は向いている。関係各機関は、『想定外の事態だった』『対応が後手に遅れた』『デジタルマスカレードを楽しみに参加した大多数のお客様方に申し訳無く想う』……等と、遺憾の意を表した。容疑者捜索を開始した警察からは、目下犯人の目撃情報等を積極的に募集している。
―…………―。
国籍番号以外に役職の便宜上から仮称を付けられた者の一人、警察庁長官『ロイトフ』は嘆息交じりにディスプレイ画面を眺めた。
(正に青天の霹靂だ……!!)
個室である長官室の中、ロイトフは自身の胸中で澱の様に沈殿して行く粘着質な憂悶を御し切れずにいた。光源を点ける気力も無い侭で、憂鬱の原因たる事件に付いての記事をディスプレイ上から眺め遣る……。
ロイトフは先程から同様の文面を延々と読み返していた。本来、彼は行政機関の重役として事件の概要は寧ろ報道機関の人間以上に内見し、把握もしている。更に政府は公式広報サイト以外にも、機密事項の通信を目的とした関係者だけが知り得るコミュニティサイトを管理してもいるのだ。
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