開かれた鉄扉の向こうでは叉も何者かが立ち尽くしている!
僕は一瞬、行く手を塞ぐ扉が開門された事で一縷の希望を感じた。しかし眼前の人間が視界に飛び込んだ瞬間、捜索隊から挟撃の構図で追い詰められていたのか、と叉も絶望の疑獄へ精神が堕ちて行く……。
もう、駄目なのか……?
そうして事態を受容し切れず呆然としている刹那、眼前の相手は僕へと躊躇無く歩み寄る。反射的に身をたじろがせるが、相手は意に介さず僕の頭部へと手を伸ばし抱き込んで来た。
不意の行動に、矢張り捜索隊の人間が繰り出して来た逮捕術なのか、と気が動転する。しかし、相手の懐から解放され視界が開けた瞬間、奴は僕を平然と押し退けた。
危うく地面へ倒れ込みそうになり膝を着く。……そして束の間の解放から、僕は単純な事実を察知する。今、僕の頭部を抱き込んで来た相手は、背丈や体格、服装からして青年……。それも警察や軍事機関とは凡そ無関係な一般市民と見受けられた。
ヘッドギアの下から全身は、無数の安全ピンと刺々しい鋲で留められた鉤裂きの服、タータンチェックのボンテージパンツと言った風体だ。その極彩色で一種生々しくささくれた意匠は、旧時代から連綿と続く音楽、服飾文化に於いて代表的な型だった。察するに、パンクスと呼称される様な人種だろうか? 政府へ反体制を表明する様な、あの……。そして察知した事柄の二つ目は、僕が彼に頭部を抱き込まれた理由だ。僕の聴覚は今や封鎖され、逆に内耳では身体の律動が雑音の様に輻輳している。
ヘッドホンだ。僕は彼から、防音を目的とする様なヘッドホンを無理矢理装着させられたのだと気付く。無音の状態の中、振り向くとこちらへ向かい疾駆して来る一隊が視界に飛び込んで来た。僕を追跡して来た捜索隊だ! とうとう警察はここ迄追跡を果たし、僕の発見に成功したのだ。彼等の鬼気迫る様相を見れば、僕を断固として捕獲しようと言う気迫は一目瞭然だった。
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