もう走る事で振り切れる距離では無い……!! こちらへ目掛け走り寄って来る警官達を前に、僕は暴力を行使してでも抵抗しようと覚悟を決めて拳を堅く握り込んだ。屈強な集団を相手取り、果たしてどこ迄闘えるかは量れなかったが……。対して、僕を押し退けて警察へと立ち塞がったパンクスは一向に動じていない。毅然さを固持した侭奴等へと対峙する、彼は何者なのか? 一体何の目的でこの地下下水処理場へ下降して来たのか? そして何故、警察と僕が衝突する危機的状況へ即妙に到着出来たのか?
そんな疑問が泉の如く次々と湧き上がる中、ふと気付くと彼の片手には何等かのコントローラーが携えられていた。彼が徐にその装置へ手を掛ける。
……するとその一瞬の後には、こちらへと息巻いて突進して来る隊員達の歩が明らかに鈍った。
突如その場で静止し始める面々に、僕は怪訝な顔を浮かべる。接近して来る一隊は、どうした事か大仰に頭を抱え込み、次々に地面へ倒れ臥して行ったのだ……!! 彼等はきっと苦悶の悲鳴を挙げているに違いないが、防音ヘッドホンを装着した僕に取っては、無音の侭一人一人が崩れ落ちて行く一種異様な光景にしか映らなかった……。
僕が事態を呑み込めず呆気に取られていると、パンクスは僕の手を引き、開かれた扉の先へと先導し始めた。
信じられない。彼が何をしたのか……!? 逮捕される寸前の窮地に迄追い込まれたが、若しや僕はこうして逃げ切れてしまうのだろうか!? 並走する中、青年は手振りで僕の頭部に装着されたヘッドホンを着脱して良いと指し示す。そこで僕は素直に彼の指示へ従い、耳を覆っていたヘッドホンを取り外した。
その直後、初めて青年は僕に向けて声を発する。
「前を向いた侭で居ろ」
それが第一声だった。渋味の利いた低音の声……。だがその声質や話し方から、矢張り彼は僕と同世代程度の若者であると直感的に推し量れた。僕は彼から出された指示の真意が理解出来ず、横目で状況を一瞬だけ盗み見る。
すると倒れ臥していた隊員達の一群から、息も絶え絶えながら這い上がろうとする一人が見て取れた。流石に国家機関の組織だけあり、相手も一筋縄では行かない。立ち位置や雰囲気からして、その唯一再起しようとしている男は一隊の指揮権を持ったリーダー格なのだろう。
「良いか!? 絶対に後ろを振り向くなよ!!」
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