・第四章・『中庭での社交~初めまして~』
真意は計り兼ねたが、僕は彼の指示に従い更なる全力を両脚へ込めて地を蹴立てる。風は切り裂かれ、視界が更に狭まって行く。丸で自我と肉体が別物として分離したかの様な自意識の消去……―。
そして数瞬の後、大音響と共に、仄暗い地底を真昼の様に照らす閃光が背後から瞬いた!
丸で僕等の逃走を後押しし、道筋を照らし指し示してくれるかの様な聖火……。僕にはそんな祝福と気勢の火花が散ったかの様に感じられた。と同時に、リーダー格と思わしき男が挙げる苦渋に満ちた声が微かに漏れ聴こえて来る……。明滅する空間の中で好奇心を堪え切れず再度横目で後方を見遣ると、リーダー格の男はヘッドギア越しに両目を押さえ込み蹲っていた。正体不明のパンクスに由る、何らかの妨害工作が奏功したと言う事なのだろう。
パンクスは僕と並走しながら、息を弾ませ快哉を叫ぶ。
「ざまあ見やがれっ!! クソッタレの政府の犬共めっ!!」
程無くして分岐路に突き当たった。しかし、そのパンクスは本来辿って来た道順なのもあってか、勝手を知った様に逡巡無く僕を先導し始める。そして辿り着いたその先には壁に打ち付けられた錆付いた梯子が在り、天井からは微かに開いたマンホール蓋が見て取れた。
出口だ……!
僕は逃げ延びる事が出来るのか……、謎の青年に由る助力の甲斐もあって……。
彼は手際良く梯子を昇り切り、僕を出迎える様に頂上で待機した。後へ続く様に、僕自身もいそいそと梯子に手を掛け出口へと昇り始める。そして程無くして昇降口付近に到達し始めると、僕はふっと一瞬顔を顰め眼を眩ませた。しかしそれは不快だからでは無い。
―マンホール蓋の隙間からは、外界から一筋の光が射し込まれていたのだ……。
*
・第四章・『中庭での社交~初めまして~』
まだ動悸が早鐘の様に、胸奥で反響し続けている……。枝葉の隙間から、そっと周囲の気配を窺う。
無人だ。この路地に通行人の気配は無い。
その静寂は僕の興奮と対極をなす様でもあり、周囲が閑静だからこそその興奮を逆撫でされる様な矛盾した心持ちでもある。
……警察からの追跡を振り払った僕達は、下水処理場から外界へと脱出を果たす事が出来た。