今では追跡網を逃れる様に、一時的な休息も兼ねて路地裏の鬱蒼とした茂みで身を潜めている。但し僕は依然として、状況を完全には把握出来ていない。寸前でどうにか警察を撒く事は出来たが、危機一髪の瞬間に颯爽と現われ、救いの手を差し伸べて来た彼は何者なのか?
横手で息を潜め僕と同様に周囲の動向を観察していた彼も、まじまじとした僕の疑問視に気付いたのか漸くその重い口を開いた。
「自己紹介が遅れたな……。俺の名前はシド。仇名だ。国籍番号は長ったらしくて忘れちまった。俺はエスの共感者だ」
「エス?」
「そうか、あんたはまだ知らなくて当然か。今、あんたは一躍時の人に成ってるのさ。エスってのはネット上で広まったあんたの仇名だ。心理学用語の原我、から来ているらしいぜ。小洒落てるよなっ!ハハッ!!
……兎に角、今や世界ではあんたの話題で持ち切りだ。当然、お堅い保守主義者みたいな奴等からはあんたは批判されてるし、近所にエスが徘徊していたら、なんて想像をして戸に鍵を掛けて怖がっている奴等も多い。そしてこれこそ当然で、さっき振り払った様に
あんたは警察からも追い回され始めている訳だが……」
シドは一呼吸置いて言った。どこか照れ臭そうな面持ちだが、彼は僕を確りと見据え直す。
「だが少なからずあんたに共感した奴等もいるんだぜ。こうしてどうにかあんたを助けられないか、と馳せ参じた俺はその第一人者って訳だ」
僕、僕の支持者……? 俄かには信じ難かった。僕はここ数日間であっと言う間に社会全体を敵に廻し一身に憎悪を浴びる様な、そんな四面楚歌の状態を覚悟していたからだ。本来、実際には一度も対面した事の無かった僕なんかの為に、こうして自身の危険も顧みず助力を尽くしてくれる様な仲間が現われてくれるとは……。ここ迄来たら、彼も逃亡者幇助の罪責は免れない筈だ。
一面識も無かった僕の為に、自らの人生を擲って逸早く共犯者に迄なった彼の勇気、献身に身が打ち震えるのを感じた。
只、矢張り一連の疑問や困惑は堰を切った様に口を衝いて出る。
「実際に会った事も無かった僕の為に、何故そこ迄出来る!? さっきは警察から逃げられたかも知れないけれど、もう君迄が協力者として警察の手配に回ってしまったんじゃないか!?
これから先、いつ迄も逃げ果せるかは僕自身が判らない……。犯罪の経験や逃亡の手立てなんて、今の時代じゃ誰も持ってやしないんだぞ?
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