―あれは防音用のヘッドホンだったんだ。奴等は高性能の集音機能を使ってあんたの足取りを追っていたんだよ。俺は奴等の高機能を逆利用し、準備して来た高周波アラームを最大限迄引き上げて聴かせたんだ。あいつ等の鼓膜を突き破るフルオケーストラを奏でてやったって訳だが、それでも執念深く追い掛け様と這い上がって来た奴がいたな? あいつは作戦部隊の隊長格だった男だ。流石に根性は坐ってた訳だな。奴は奴で、ヘッドギアの視界を夜間用の暗視スコープに切り替えていた。地下道ではどうしても薄暗いので、その機能に頼ったんだろう。あの暗視スコープは、真暗闇でさえも視認を可能とさせる赤外線照射機能付きだったからな。
だが、それも叉逆手に取り、俺は調達した閃光弾で奴の目を眩ませてやったって訳さ。真昼以上に輝く光を直に浴びせられて、奴も吸血鬼みたいにぶっ倒れる事になった。だからあの時、あんたに後ろを振り向くな、と警告したのさ。
……事前に警察の情報を探知出来たお蔭で、妨害工作は想像以上に上手く行った。まあ奴等からしても、部外者の登場なんて予想外だったろうしな……」
……僕は既にシドへ魅かれていた。危険を省みない、蛮勇と言える様な衝動的行動に出たかと思えば、警察の先鋭的な技術力や防衛力を出し抜く程の知力や機転も併せ持つ。そんな二面性は危うさを孕んではいるが、その危うさこそが何よりも耐え難い磁力を放っている気がするのだ。彼も叉、初期衝動の塊そのものの様な人間なのか。
本来一時も気を緩められない窮地に居ながら、僕は彼との時間の共有に平安すら覚えた……。しかしこの安らぎは、今はまだあやす様に眠りへ就かせなければならない……。
「シド。怒ったり勘繰ったりするなよ。僕は何もお前を疑ったりしている訳じゃない。だけど……。今は一旦散開するべきだ。理由は解るか?」
シドは暫し無言を保ち、不承不承に頷いた。
「なあ、俺自身はもうこんなクソッタレの仮面を剥ぎ捨てるなんて怖くも何とも無いんだぜ、本当に。だが今はあんたを支えて行く方が先決だから、未だ脱げない。本当にそれだけなんだ」
「ああ、解ってるよ。只、今は……」
「そうさ、仕方ない。俺自身のヘッドギアは今後の行動の為にどうしても必要になる。しかし逆にそれが足枷にもなって、あんたと一緒に居られなくもなる……」
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