そう、シドの機智ならば、ヘッドギアの全機能を駆使して僕を支援してくれる事は最早間違いない。しかし逆にそのヘッドギアの音声、映像記録機能やGPSは僕達の居場所や動向を特定する重要な糸口にも成り得てしまう。警察の一隊と対峙した一連の場面も、当然その侭奴等のヘッドギアには重大な証拠映像として保存されているだろう。僕に助力し公務執行妨害を犯したシドの正体は、間も無く警察の情報解析に由って判明してしまう筈だ。先刻は有耶無耶の内に警察の追跡を煙に巻けたとは言え、そろそろシドの個人情報、一連の動機や現在地迄もが特定されてしまう頃合いではないか? だとすれば、それこそ現在の会話すらも傍受され兼ねない筈だ。今のやり取りすら情報としてシドのヘッドギアには蓄積されている以上、今後電脳網上から警察に精査されたら……。
そう冷静に分析すると、名残惜しいが一旦はシドと別離するしかない。シドは収まりが付かないのか延々と僕へ言い聞かせようと気を吐き続けていた。
「俺だってとっととこんな仮面は脱ぎ捨てたいんだ。その上で初めて自分に成れる、とも想ってる。そして、そうして初めてあんたと顔を合わせ、やっと対等の仲間に成れる。本気でそう想ってるし、そうしたいんだぜ……!」
ああ、解ってるさ……。誰もお前を見縊ったりなんかしない、するものか……!!
「そうだ、あんたの為にちょっとしたアジトの用意はしていたのさ。これを上手く使ってくれ……」
シドは口惜しそうにしながら、懐から瀟洒な装丁のカードを差し出して来る。その紙片には、<クラブ『サイバーベルファーレ』/VIP会員証>と明記されていた。
「この磁気カードの会員証を使えば、クラブの地下室へ自由に出入り出来る。話しはマスターと付けているから、俺のカードさえ裏口で使えばボディチェックや個人認証、監視カメラなんかの措置は全部不問だ。暫くの間はそこでやり過ごす事も出来るだろう。まあ、あんたの事だからずっと逃げ込んでるって事は無いんだろうけどな」
僕は胸中を見透かされている様で、多少の戸惑いを覚えた。
「……解るのか? 僕の、これからの目的、みたいなものが……」
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