・第五章・『舞台裏を覗く者達』
「解ってるつもりだぜ。ずばり、あんたは警察を中心に社会へとテロを仕掛ける。俺が用意したクラブの地下なら、上手く細工して行けば当分の間警察の目を掻い潜って隠棲する事も不可能では無いが……。だがそれはあんたの本望じゃない、だろ? 地下に潜伏した侭なら、あんたの最初の犯行声明や素顔迄を晒した意味に反するからな」
正鵠を射ていた。自己を渇望し社会に一石を投じた僕が、蟄居し続ける事は許されない。それはシドと逢う直前にも自身へ課した誓約なのだ。
自己を欲した者が志半ばで雲隠れしてどうする? 叉無色透明に陥る訳には行かない。この侭例え地下世界へ潜伏し安全を保証された侭生き永らえたとしても、それは自身の行為と誓約への抵触で有り敗北……!!
僕は後には退けない。何が何でも外に出る、前に出る。現状はその為の戦略的一時撤退に過ぎなかった。
―そして僕は肝を据えた面持ちを見せる。その僕の決然とした表情を読み取ったのか、シドは先程のやり切れない様子から一転し、我が意を得たりと云った調子で僕の肩を威勢良く叩き始めた。
「だから解るんだよ、あんたの気持ちはさ……。それでな、クラブの裏口への入り方は……」
*
・第五章・『舞台裏を覗く者達』
―平生ならば静寂を旨とするべき警察庁内の空気だが、現状では棟全体が異様な緊迫感に満ち満ちている。
エスを発見しながらも寸前で検挙失敗、再度逃亡を許す結果になったと云う第一報を聞き及び、ロイトフは愕然としていた。
(エスの逃走手段や行方は自身の端倪通りだったと言うのに……!)
一旦は接触しながら取り逃した以上、捜索は益々困難の一途を辿るだろう。それだけの修羅場を体験し潜り抜けた者ならば更なる危機意識と敵愾心を併せ持ち、今も逃亡先のどこかで自らの牙を研ぎ澄ましている筈だ。退路を断たれた獣が完全に覚悟を定めた……。失敗は紙一重の惜敗だったとしても、寧ろ犯人を強かに成長させる裏目へ出たのだ。
(しかし寸前の所で介入した第三者とは何者だったのか? エスは計画的犯行に及んだ訳では無く、発作的、衝動的な通り魔だ。その第三者が、エスと以前から何等かの関係性を持っていたと言う線は希薄なのだが……。
そして不意打ちの様な形とは言え、警察の機動に妨害工作を仕掛けるだけのその機知と胆力……。これは、逃亡幇助者の正体や動機も究明せねばなるまい)