不正アクセスを働く際、基本的な手口は『識別符号窃用型』だとシドのデータベースでは解説されている。俗に言うパスワード破りだ。僕は湧き上がって来る好奇心の熱味に浮かされ、裏サイトへの工作を謀ろうと衝き動かされていた。
法的機関の中でも高位に立つ者達でしかこのサイトへの通過は承認されないのだろうが、どんな情報を流用し侵入を試みるか? 別ブラウザから、迅速に法的機関の重役名簿を検索して見る……。通常では一般市民に姓名は与えられず、国籍番号を自身の名前代わりとさせられる事が慣例だった。但し要人へは役職上、政府から便宜的に付与される仮称も存在するのだ。
その制度に着目し調査して見ると、案の定データベースからは錚々たる面子が検出された。政治に無関心な若者達でもテレビ等で見知った名前ばかりが列挙されているその名簿の中、不意に一人の名前が視界の片隅に留まる。
『カーマ警察庁長官ロイトフ』……。
警察庁長官か……。僕はこんな些細な発見に、段々と思索の糸口を紡ぎ出していた。社会へ蜂起しようと画策している現状、法政の象徴たる警察内部の人間、特にその機関内で頭目を張る男は最も相応しい標的と言えるかも知れない。
『ロイトフ』。ふと、手始めに彼の個人情報を流用して見てはどうかと思い立つ……。彼の個人記録に基づいた情報から、認証時のパスワードを推測しアクセスを試みるのだ。
カーマ警察庁長官の通名は、『ジギムスント・ロシュー・ロイトフ』。
「error。ユーザー名及びパスワードが違います」
彼の生年月日。5月6日。
「error。ユーザー名及びパスワードが違います」
彼の国籍番号。1939923。
「error。ユーザー名及びパスワードが違います」
……矢張りここ迄安易な設定ではないか? 一旦思案しPC内のフォルダを参照し直すと、シド特製のハックツールが即座に見当たった。
彼の裏情報網や解説を基に、次は辞書攻撃で試みる事にする。パスワード入力時に於ける使用頻度の高い文字列を収めた、パスワード破り専用辞書を適用してみるのだ。この辞書には、一般名詞の他に人名や地名等の固有名詞も含まれている。この膨大な語彙を文字列へと引用させ、機械的に総当りで入力して行く様に仕組んでみた。
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