僕に取ってはここも所詮上辺だけの馴合いが横行する、実に白々しい学芸会の舞台だ。希望に満ち溢れた青春の謳歌等何処にも無い。保身と引換えに、退屈と言う檻に自ら入獄した惰弱な囚人達の巣窟……。僕には本音迄を曝け出せる友人等一人として居ない。
……教科書には便法ばかりが載るが、夢を持つ事迄を説きはしない。
―例えば<家族>―。
絵に描いた様に平凡で円満な家族。無知で善良な両親の元で、何の障害も不足も無く、僕は手塩に掛けてここ迄撫養されて来た。家庭内では軋轢等皆無で、思春期の反抗なんて現代では風化した通過儀礼だ。何所の家庭も扶養される者は従順で卒が無い。
両親は息子である僕がこの侭大学を巣立った先には、順風満帆に平均水準の社会生活を送り、程々の女性と結婚し、自分達の家庭を築き、何れは両親達の老後の世話迄をも甲斐甲斐しく担って行ってくれる……、当然の様にそんな未来予想図を確立させているに違いない。無論僕も両親に対する敬愛や謝意を持ち合わせていない訳では無く、それ程の薄情者でも親不孝者でも無いつもりだ。
両親が想い描く家族計画は至極真っ当な物だろう。しかし内心を告白してしまうと、僕は両親や世間に浸透した既成概念には馴染めない……。……安定や保証と言った、処世術に終始した一般的価値観にだ。
眼を背けたくなる様な異物も汚濁も傷跡も無く、丸でテレビCMの様に整合的に配備された、絵空事の様な理想的生活空間。全てが約束事に満ち、快適さや健康を典型として、安息を第一義とする教条的人生。最終的には幸福な結末が用意されている周到な台本……。
誰もが社会の進行に順応して行かなくてはならないのか? 予め定められた流れに乗れば安楽に生きて行ける。しかし人間として生まれ落ちたならば、只の歯車の一部として日常に埋没するのでは無く、生きる証を立てる様な夢を追い求めてはいけないものなのだろうか……?
夢と言う概念自体が枯死して幾時代も経過している……。そんな無機質な現代で生育されて来た故か、疑念を抱えながらも確固たる生き甲斐と言うものは、正直僕自身未だ掴め切れてはいない。しかし若しそんな理念が具体的な事柄として浮かび上がった時、僕は安定した将来や家族の期待、信頼に対して違背して仕舞うかも知れない。
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