所謂『デジタルマスカレード通り魔事件』が社会現象化した近頃では市井の防犯意識が鋭敏になり、事件責任の矛先として政府への指弾は例年に無い程の集中傾向を提示している。そんな苦難の渦中、都心部の交通機関を端緒に連鎖した、原因不明の大規模な公共装置の切断状態……。類例を見ない不具合を発生させ、尚且つ政府は又しても対応処理が遅延してしまっている。復旧作業の目処が立っていない現状を前に、市民は政府へ懐疑的な視線を向け始めていた。
『インダーウェルトセインは世界を牽引する最先端の電脳都市と謳われているのではなかったのか? 最高水準の政治制度、社会福祉制度、高度経済、高度科学技術、犯罪発生率も極少たる治安性等……。何もかもが人民統制を目的とした、政府の甘言に過ぎなかったのか?』
最近の失態の連続から、万人に取っての理想郷が砂上の楼閣として崩落し始めている……。この侭では国民の政府支持率は低下する一方の筈だ。都庁内部の防災センターは現在一連の対応に追われ、庁員達は一同息急き切って職場の内外を駆けずり回っていた。市民から殺到する苦情処理、各所への陳謝、端末の復旧作業と……。嘗て経験の無い修羅場に直面し、誰もが動揺と疲弊の気色を隠せなかった。
―そんな紛糾している防災センターの手広な一室で、殊更に沈痛な面持ちで鎮座する上役が一人。この防災センター部を取り仕切る室長その人だった。防災センター室長も執務上、本来は泰然とした姿勢を崩す訳には行かない。しかし事件の連続から度重なる叱責に、彼は最早耐え兼ねている様子だった。警察庁長官ロイトフにも防衛意識や対策の欠如へ批判は集中しているが、当然防災管理を旨とするこの部庁にも矛先は向けられる。各所からの指弾及び下位からの突き上げ、ロイトフの様な重鎮からの批難と完全な板挟みの状態にあり、室長は窒息寸前だった。
そして降格や左遷、最悪の場合は解雇と云う未来予想図に気落ちし嘆息している最中、若輩の庁員が切羽詰った声を掛けて来た。
「室長、幾つかお話しが……! 整備管理部の調査から、今回のシステムダウンの原因は外部からの妨害工作にある様だとの報告が……!!」
室長は目を剥く。
「機械上の不具合では無かったと? 具体的には何があったんだ?」
ミラクリエ トップ作品閲覧・電子出版・販売・会員メニュー