そして何の展望も持たない僕にも近日中に付与される予定の筈だ、凡庸で陳腐極まりない退屈な仕事が……。
整合性と言う名目の下、体制の歯車に一個の部品として組み込まれる。消耗した部品は何れ廃棄され、矢継ぎ早に代替品は用意される。何の疑念も葛藤も抱く必要が無い、何かに泥臭く努力する必要が無い。禍福無く安穏と、温室で生育される植物の様に只生き永らえる……。
平常。平常とは振幅が存在してこその定義だ。歯車の可動に故障や障害すら有り得ないと保証された時、それは平常や維持ですら無い。
停止だ。
この社会は停滞し続けているだけでは無いのか? そしてその枠組みで閉塞している僕自身も。……そんな疑念ばかりが澱の様に内心で沈殿する。どんな場所に居るとしても、僕の魂は胡乱に身体から抜け掛けて中空に浮遊して仕舞っている。
全てが空疎だ。
時折僕は内外の現状を、吹き出しに何の台詞も書かれていない未完成の漫画原稿の様だと想起する。
相容れない、馴染めない何か。僕は制御し切れないそんな情動に、日増しに憑依されている気がするのだ。段々と噴出しそうな叫び。
(全ては虚構だ、嘘っぱちだ、全ては虚構だ、嘘っぱちだ……)
そんな内心の咆哮に。
……不意に耽っていた物想いから目覚める。立ち止まって傍観していた祝祭の活況へと、次第に視界の焦点が定まって行く。当初丸で無関心だと前述したが、今日のパレードに於ける熱気は不感症気味な僕の精神状態へ、多少なりとも現実感を呼び戻し掛けてくれているかも知れなかった。
耳を劈く様な雑駁たる大音声。中てられて仕舞いそうな人熱れ。建物は旗や花等で見目も華美に装飾されていて、紙吹雪は粉雪の様に舞い散り、何時しか石畳を極彩色に彩っていた。
晴天の蒼空には、色鮮やかな数多の風船群が植物の綿毛の様に浮遊しながら次々と吸い込まれて行く。行進する楽隊に由って奏でられる心躍る様な賑々しい音楽が、時に音塊と成って腹部へ響き、時に玉を転がす様な心地で耳を快くさせてくれる。そして街区を闊歩するのは、仮面舞踏会と言う祝祭に於ける本日の主役、古式床しい仮面と衣装で盛装した舞踏家達と牽引される馬車の一群……。
微笑ましい家族連れ、愛を誓い合った恋人達、熱に浮かされた様に疾駆する子供達……。
(皆、幸せそうだ―)
その交歓に満ちた情景に紛れながら僕は想う。
(皆、幸せそうだ―)
そう、或る一つの特徴を除けば。
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