Ⅳ―ⅰ 料理長への差し入れ
中庭を通り、滞りなく流れ続ける噴水のわきを歩きながら見慣れた景色を見渡してみる。すると…水しぶきと月の光を受けた花々がキラキラと輝き、昼間とは違う幻想的な夜の顔を魅せていた。
「この風景はいつの時代も変わらないな…」
こう呟けるのも彼が長い時間を生きているからであり、しかし…自分が時間の波に取り残されているような錯覚に陥ることさえある。キュリオは一度空を仰ぐと小さくため息をつき、ジルの待つ部屋へと急いだ。
使用人の中でも料理長という立場の彼の部屋は宿舎の上位階層にある。
なるべく人目につかぬよう気遣いながら建物内へと足を踏み入れると…
ガハハと笑うあの楽し気な声が廊下にまで響いてきた。
クスリと笑いながらキュリオはひとつの扉の前で止まり小さくノックする。