5 日の月
いつからだろう。月の光があまりにも眩しくなったのは。
いつからだろう。殺すべき敵が周囲をうろつくようになったのは。
ニスタは自問する。自答する声はない。問いだけが、ニスタの頭の中を掻き乱す。
「……っううああぁぁぁぁ! 煩え!」
飛び起きたのは、まだ『月』が南中する前のことだった。途端、ザワ、と空気が濁るのを感じる。
「ちっ……気付かれたか」
耳障りな声がした。ニスタは瞬時に大剣を握って飛び上がる。タン、と地を蹴ると同時に、廃材が爆ぜた。否、火炎瓶が投げ込まれたのだ。
「寝かせてくれないってか? 睡眠は大事なんだが」
「正論はいらねえな」
十人あまりの男たちが、剣や弓を手にニスタを取り囲んでいた。その後ろで不敵に笑うのは……
「その女ぁ!!」
ニスタの声に怒気が混じる。その視線の先にいたのは、赤髪の女だった。
「ほぉう? 狂ってもアタシの記憶はあるみたいだね?」
女はくっくっくと小さく笑うと、「やれ」と合図を送る。男たちは一斉に武器を構えた。矢が交錯し、そこに剣の追い打ちがかかる。
「ち……眠てぇ時に限って、こういうことをしてくれる……!!」
刃の先を左腕に滑らせるようにして受け流し、矢を大剣で打ち払う。勢いのまま、女目掛けて刃を振り抜く。女は両の手でそれぞれ細身の剣を腰から抜き、二刀流に構える。
「うちの研究所を壊し、『災厄の顔』を振り撒いた罪……償いな!」
哮る女目掛けて大剣を打ち付けながら、飛び交う矢をかわす。振り向きざまの一撃を女はクロスさせた刀身で防ぎ、突きに転じる。
「くっ……くっく……」
くぐもった笑いを堪えるようにしながら、ニスタは女の猛攻を刀身にぶつけさせて耐えきる。
「その『顔』を振り撒かれたのは誰だ? 埋め込まれたのは誰だ? 誰だ?」
一瞬の隙をついて、ニスタは廃工場の入り口に向けて駆けた。
「しまっ……!」
女の追撃がニスタの左腕の顔を薙いだ。声にならない絶叫が辺りを満たした。だが、ニスタは工場の入り口の扉を蹴破ると、その中へと姿を消したのだった。