それぞれの努力
俺は、文句があっても黙ってるくせにプライドばっかりが高い、嫌な奴かもしれない。
外面だけを、学校なら学校で一番望ましい形に見せかける、ごますり野郎かもしれない。
わかってる。
それでも、化けの皮を作るにはどうすればいいのかだけを考えてたわけじゃない。
失礼のないように、自分に時間を割いてくれた人には感謝するように、その上での「学校(ここ)での理想」を俺が映し出すように、
「努力」をした。
少なくとも、みんな努力はしている。人に好かれるような努力とか、バカっぽいことやって空気を盛り上げる努力とか、迷惑をかけないように人目を気にかける努力とか。
その方向に走ることが、自分らしさで、俺というものを作り上げているとすれば。
「俺は、どうなりたいんだ」
最終的に俺の手元に届いた三年の総合成績はオール5。
こんなことがあるんか、なんて考えながら、担任から「卒業式に優良生徒で表彰されることになりましたよ」と、告げられる。
勝ち続けた三年間が、学業賞という形で俺に努力を証明した。
負かしてきた相手が、全て無気力試合だったとしても。
俺が励んだことに変わりはないのだから。
どこからか、称賛の声が掛けられる。
「すげえ、おめでと!」
無駄に謙遜してないで素直にありがとうでいいだろうに、それがノドにつかえてしまって俺は苦笑いをする。こういうところが、ダメなんだ。
そもそも俺が学業賞なのは、近くの高校諦めてこの高校に余裕の成績で入ったからかもしれないし、皆が本気を出してないだけかもしれないし……。
俺一人が、テストで燃えてただけかもしれないし。
(やめやめ。結果こうなったわけだし)
卒業はやってきた。
春の暖かな陽なんて、今日の良き日なんて、間違っても言えたもんじゃないこの強風と寒さ。
体育館に入ろうが入るまいが足元から冷えてくる。
それでも。入場と共に、わっと拍手の音と吹奏楽部の演奏が体育館中に響き渡る。無意識に瞳に映る紅白幕。
卒業式だ。そう思った。
順調に、淡々と、式は進んでいく。俺がこの高校で過ごしてきた三年間を振り返る、なんて暇もなく次々と。
来賓紹介、並びに祝電披露。司会の声が、俺の動くべき時をじわじわと攻め寄せてくる。
握りしめた両手が緊張と興奮で、ぬるりと汗ばんだ。
しかし不思議と鼓動は、この会場の静けさをならうように静かだ。
手だけが湿って、寒さで冷たくなるとまた握りしめるのを繰り返す。
乾燥した冷たさが頬をかすめて、舌が上顎に張り付く。しかし、誰一人動くことのない張りつめた空気。
指先は冷たくて。
けれども顔は、妙に火照っているようで。
「優良生徒表彰――」
ごくり。と、粘るような生唾が、うんざりする程に重く感じる。
俺は、溜め込んできた精一杯の声で、
「はい」
と、静寂を切り開いた。
しんと凍える会場の中で、俺だけが熱くなっている。誰もが俺を、じっと見ている。
俺のことだけを。
敷かれたレールを歩いていくかの如く。歩かされてきたかもしれぬという事すらも忘れて。
後ろから一直線に集まる視線が、ぐんと背を押す。
さあ、登壇せよ。と、ここまでひかれた一本の道をなぞり歩く。
頂きで、いざそのものが目に入ると、心臓が思い出したかのようにバクバク言い出した。
俺は、ついに手にするんだ。
賞状は、綺麗だった。金色に光をはね返して。
「ありがとうございます」
俺の声が、何だか遠くのもののように感じた。
小声で答えながら受け取ると、校長は、マイクにはわからないくらいの「はい」を返した。
「中学の時と違って、最初から折られてんのなー」
教室に戻って、それぞれが卒業証書を手にしながら思い思いに騒ぎ始める。
証書入れは半分に折りたたむようになっていて、証書自体も丁寧な折り目のあるものが配られた。
それと一緒に差し出された「皆勤賞」と「学業賞」は、黄色がかった、まっすぐなものであったが……。