第一章:追われる少女――9
☆ ☆ ☆
今日は、ツイている日だ。
ファレグ隊副長補佐の男は、数刻前まではそう信じていた。
何しろ、件のテロリストをあぶり出すべく、街中を探索していたら、欧州連盟から手配を受けている〝あの少女〟を、偶然発見したのだから。
まさしく棚から牡丹餅。嬉々として、行動目的を変更し、少女とのチェイスを開始した次第だ。
彼女を捕まえれば、昇進も夢ではない。否、確実に昇進できる。
――だと言うのに……、
副隊長補佐は、奥歯を噛み軋らせた。
まさか民間人を誑かすとは。しかも、頼まれたあの民間人が、律儀にも手を貸すとは。完全に予定外だ。
さらに、さらに、彼は地の利を活かして、逃走中。もし乗り物が天空車両ならば、あんな小ネズミ染みた逃走経路は使えないのに。
「これだから、貧乏人は嫌になる」
思わず、愚痴と舌打ちが同時に出た。
『副隊長補佐! 目標、ロストしました』
「良いから探せ! 何がロストしましただ、ふざけんな!! 探索続行!! 虱潰しに探し回れ!」
『無茶言わないでくださいよ……、こんな無機質な森の中から、自転車一台探し回るなんて……。しかも、相手は女の子じゃないですか』
どうやら今日は、実はツイていない日らしい。
目星を付けた獲物を逃し、しかも何だこの部下は。ゆとり教育なんて死語の筈じゃなかったのか? 日和ってんじゃねえよバカヤロウ。
「本部の連中導入しても構わん!! 無茶だろうが何だろうが探せ! 分かってんのか、お前! 〝アレ〟は〝魔導司書〟なんだぞ!? どれだけ利用価値があると思ってんだ!!」
イヤホンから聞こえる溜め息に、何かが切れる音がする。