第三章:空の書、理の書――10
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放送の全てを聞いて、哲也はまず感想を作った。
――む、無茶苦茶言いやがるな――!!
個人情報の公開が罪に当たるなど、過去の判例でも、司法機関を舞台にしたドラマでも常識だ。
いや、あの魔美って女隊長の考えからすれば、自分たちは犯罪者扱いだし、同じ人間として見ていないのかもしれないが。
だとしても、いくら何でも、行き過ぎだ。
確かに、魔導司書を捕らえるならば、現状はカモがネギ背負って、何時でも鍋にぶち込めるシチュエーションだろう。
だが、哲也は違和感も感じていた。
――俺たちのときは、ここまでアグレッシブに殺りに来たか……?
勘繰り過ぎかもしれないが、そんなことだ。
自分とフィロが疑われ出したのは、二日ほど前。そして、本日窮地に陥った訳だが、ドグマと政が現れるまでは、個人情報公開などと言うジョーカーな手は、切られていない。 言い換えれば、ドグマと政に出会ったときから、相手の圧力が急に増したのだ。
まあ、単に、最後の詰めのタイミングで、たまたま二人が巻き込まれたとも言えるが、引っ掛かるのは、魔美の台詞だ。
――寧ろ、我には、君たち二人の方が、よほど危険に映るぞ――?
それは、つまりこう言うことではないだろうか。
――ドグマの能力は、そこまでのものなのか……?
「……ここまでのようですね」
深く深く、長く、ドグマの溜め息が聞こえた。
「ドグマ?」
政が、そんな彼女に怪訝そうな目を向ける。フィロは押し黙り、哲也は言わずにはいられなかった。
「妙なこと考えんな! オメエ何言ってるか分かってんのか!?」
ドグマは投降する気だ。
「俺たちには保護団体っつう後ろ盾があるし、オメエのことも擁護するつもりだ! ……だが、もしも――」
彼女は人差し指を唇に当て、静かに、と伝えてくる。いや、語弊があるか。黙っていて下さいが正しい。
「アナタなら分かる筈ですよ? 哲也。ワタシたちの正体が明かされること。それが何を意味するか」
チェックメイトなんですよ。
哲也には、そう聞こえる。
「ドグマ。キミは、法陣都市の住民じゃない。逃げようと思えば、キミだけでも……」
「酷いこと言わないでくださいよ、政。また、独りぼっちになれって言うんですか?」
「違っ……! オレは、キミが――」
「その気持ちだけで、ワタシには十分なんです。大丈夫。政の人生は。政の無事は。ワタシが保障します」
十分。ドグマは迷わず告げたが、同時に浮かべた微笑みは、笑みと呼ぶには、不完全すぎた。