第四章:ドグマの嘘――6
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独房の中は、余りにも無機質なものだ。
白いキューブの内側に、シングルベッドを一つ置いただけ。独房自体にも、その前室にも、電子錠付きの扉があり、二重のセキュリティで外界との連絡が遮断されていた。
まあ、この独房は、凶悪犯専用に造られた、個人仕様の牢屋らしいから、当然ではあるけれども。
「ワタシの人生も、これでお仕舞いですか」
独房の中。ベッドに腰掛けつつ、ドグマは終わりを感じていた。
既に、魔導書のテキストデータ解読用の血液は、提供済みだ。
テキストデータ解読には、専用の解読装置が必要で、解読された塩基配列をビット配列に変換する作業も要する。
そのため、専門の機関に頼らねばならず、解読が完全に終わるまでは自分の命も保障されるが、解読が無事完了すれば、問題なく処分されるだろう。
それよりも。そんなことよりも。苦しいと思うのは、
――政に、嫌われてしまいましたよね……。
それで良いと、言い聞かせた。政に嫌われれば、自分が死んでも悲しむことはないだろうと。
ちゃんと、自分を忘れてくれるだろう、と。
だから言った。自意識過剰だと。誰でも良かったと。
それを聞いた、彼の表情を見ることができなかったけれど、隣にいるだけで、酷く傷付いたと分かった。
悲痛な顔をしていると、目にせずとも。
彼の夢に付け込んだことは事実だ。彼の夢を叶えれば、契約も結んでくれる。そんな、打算をしたのは本当だった。
でも、
――嘘を吐きましたが、それ以外も本当だったんですよ――?
今更だけれど、好きになったことも、その思いを信じてほしかったことも、事実だったのだ。
――困っている女の子を放っておけるほど、悪人でもなくてね――。
そう言われて、どれだけ嬉しかっただろう。
独りぼっちで、逃げ続けてきた自分に、たったそれだけの理由で手を差し伸べてくれた。その優しさと温かさに、どれだけ救われたか、彼は気付いているだろうか?
……だけど、間違いだったんでしょうか……?
思えば、契約などしなければ、彼が巻き込まれることはなかった。
思えば、好きになんてならなければ、自分はまだ逃げ続けていられた。
思えば、彼に出会ったそのことは――、
「――ドグマ」
そのときだった。
「迎えに来たよ」
彼の声がしたのは。