第五章:魔女――3
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信じられない物言いだ。
政は、彼女の言葉を頭の中で反芻する。
――テロ行為を仕組んだのは、我なのだから――。
要約すると、いくつかの結論が浮かぶ。
つまり、黒衣崎魔美は自ら罪を犯し、その罪をフィロと哲也に着せた。その上で、自分の統括する部隊を以て追跡していたのだ。
何故? いや、答えは一つしか見えない。フィロ・ネッテスハイムと言う名の魔導司書を捕獲するため。
だが、
「どうしてだ!? 七柱軍ってのは、〝法陣都市〟を守るための軍隊だろう!?」
少なくとも、自分が知っている七柱軍は、自分が夢見た七柱軍は、正義の団体である筈だ。
そして、魔美はその一部隊の長。それ以前に、彼女は黎明警察署で警部の地位に就いている。
なのに、どうして、こんな犯罪行為を?
「なるほど。正論だ。ならば、言っておく。――我に取って、七柱軍は魔導司書を狩るための道具にすぎない」
しかし、と彼女は続けた。
「君の意見は、法陣都市を代表としたものだろう。良くできた模範解答だ。ならばこそ、我の工作は正当ではないか?」
「な、何が? どこだ!? どこに正当な部分があるって言うんだ!!」
「正当な理由ではないか。七柱軍は、法陣都市の正義を守る。その軍隊を動かすためには、悪を創らねばなるまい」
言葉を失った。
おかしい。こっちは、倫理的な……と言うか、人の道に則った話をしている筈なのに、何故、どうすれば軍隊を動かせるか、なんて話にすり替わっている?
「つまり、魔導司書を狩る、正当な動機を設けるために、俺たちに罪を着せたってことかよ!!」
ギリギリと、歯軋りの音が聞こえた。哲也が、怒りを必死に堪えながら、問い詰めているのだ。
「そうだ。我にしては、狩人として当然の下準備をしたと思っている。順当だろう?」
「どこがだよ!! 人権無視も甚だしいじゃねえか!!」
それに、
「だとしたらな? 隊長さん? アンタに正当性を語る権利はねえよ。何しろ、テロ行為によって、住民に迷惑を掛けているんだからなっ!!」
至極もっともな意見だと思う。
少なくとも、赤ずくめの女隊長と比べたら、随分以上に真っ当なものだ。
確かに、魔導司書の捕獲と、魔導書の解読は、結果的に技術発展に繋がるだろう。
しかし、やり方が頂けない。いくら何でも、やって良いことと、やってはいけないことがある。
そして、彼女のやり方はいけないことだ。何故ならば、その瞬間に、住民の生活を犠牲にしているから。
たとえ、未来に発展が花開くとしても、現時点での平和が脅かされて良い道理には、ならない。
「住民に迷惑か。なるほど。――それは良い。一石二鳥ではないか」
それでも、魔美は笑み顔で言った。
「我に取って、これほど都合の良いことはない」
左右非対称の、邪悪な顔つきで。