第五章:魔女――4
☆ ☆ ☆
「…………はあ?」
四人が絶句している。
魔美は、四人の顔つきを眺めて、自分の顔が歪むのを感じた。
何を言ってるんだ? 分かっているのか? 自分の立場を。――そんな言葉が聞こえるほどの、混乱と不可解が混じった目つきだ。
もちろん、分かっている。自分が何をしているのか。それをしたら何が起きるのか。そんなことは分かっている。分かっているから、実行に移したまでだ。
「ア、アンタ、自分が言ってること理解してるか?」
月詠政が、訴えを声にした。
「アンタは、軍の人間だろう?」
だったら、住民を守るのは当然。そう言いたいのだろう。魔美は、彼の言葉の先を予測し、面倒だから言っておくことにした。
「そうだ。我は七柱軍ファレグ隊の隊長だ。つまり、我の下に就く者たちは、我の道具である」
そして、
「先ほど言った通り、我の目的は魔導司書の狩りだ。そのために軍を利用した。矛盾があるか?」
帰ってくる応えはない。ついに、四人は言葉を失ったようだ。
それでは仕方ない。このまま無駄に時間を浪費するのは、得策ではないだろう。
思い、魔美は一人で語ることにした。
「そして、我の目的に則れば、住民に迷惑が掛かることは喜ばしいことなのだよ。――何故ならば、我の目的は法陣都市の滅亡なのだから」
四人が全ての動きを止める。魔美は続けた。
「七柱軍に所属しているのは、魔導司書の捕獲が可能だからだ。テロ工作は、魔導司書を捕獲する理由の捏造。そして、魔導司書を捕獲するのは、適した魔導書を手に入れるためだ」
適した魔導書とは何か? そこまで語る必要はない。彼らならば気付くだろう。
自分の目的は話した。加えて、彼らは己の契約した魔導司書の能力くらい、把握して然り。
「な、……な、ぜ?」
無理矢理絞り出したような、震えた声で疑問が来る。
何故、法陣都市の滅亡など考えるのか? と尋ねたいのだろう。
答えとして、魔美は昔話を語った。
「――その昔、〝アルバテル〟と呼ばれる女性がいた。彼女は、優しい人でな。人里離れた森の中で、孤児院を営んでいた。孤児たちの面倒を見ながら」
しかし、
「彼女と孤児たちの生活は長くは続かなかった。突如として、彼女は連れ攫われたのだよ。魔術に賛同する者たちの手でな。二〇年ほど前のことだ」
ところで、と魔美は話題を変える。
「法陣都市は、魔導書〝七霊の書〟を参照し造られた街だが、その建設が何時から始まったか知っているかな?」
「……確か、十七年前――」
「なかなか博識だな。では、七霊の書はどこで手に入れたものか、知っているか?」
考え込む四人の表情が、引き攣りを得た。
ここまで言えば、流石に気付くだろう。何故、今、自分がその話をしたのか?
何故、二〇年ほど前の話と、十七年前の話を、連ねて話したのか?
七霊の書の入手先。魔術賛同者によるアルバテルの拉致。
「まさか……」
ドグマの気付きを、魔美は肯定する。
「アルバテルは、七霊の書の魔導司書。そして、我、黒衣崎魔美は、アルバテルに育てられた孤児の一人だ」
分かるかな?
「我の目的は復讐で、そのために探し続け、ようやく見付けたのが君なのだよ。ドグマ・ルイ・コンスタンス」