第一章:追われる少女――3
☆ ☆ ☆
黎明学園儀式科の食堂は、八階にある。
調理場がある一面を除き、残りの壁面はガラス張りと、開放感が満点だ。
席は多人数共有の長方形と、個人~若干名の円形のものがあり、政とその友人は円形の席を利用していた。
「頂きます!」
政が瞳を輝かせながら合掌し、最安値の野菜炒め定食をがっつき始める。
対峙する友人は、落ち着いた様子でハヤシライスをすくいながら、
「テンション高いなあ……、お前、普段何食ってんの? ちょっと、心配になるぞ」
「手間も調理費も掛からない、真のタダ飯だぞ? しかも、食後に洗い物もしなくて良いんだ、テンション上がらない方がおかしい」
完全に貧乏性が板に付いてる政に、人知れず哀れみの視線を向けて、彼は再び尋ねた。
「奢られてるのは忘れんなよ? これは、ちゃんと代価を請求する、正当な取引なんだからな?」
「分かってるって。夏休みの課題、ノート一冊分写させれば良いんだろ?」
箸使いを止めないまま、政は続ける。
「……ただ、それで本当にキミは良いのか? 夏休み明けの実力テスト、点数下がってもクレームはなしだぞ?」
「改めて聞くけど、何故点数が下がるんだ? 課題って余分な勉強だろ?」
政が、この野郎と半眼で訴えるが、友人は意にも介せず首を傾げた。
どうやら、天才青年の友人に取って、課題と言うのをやろうがやるまいが、成績には大きく響かないらしい。
彼は、授業さえ真面目に受ければ通用する特殊体質で、夏休みの宿題なんて無用の長物。寧ろ、しっかり休みをエンジョイした方が、ストレス解消でモチベーションが上がるのだろう。
受験生辺りがうっかり呪ってしまうほど、素敵なスキルをお持ちのようだ。
政が諦めに似た表情で、後頭部を左手で掻く。
「キミに取っては、儀式科のカリキュラムも小学校の延長なんだな。そのIQ分けられるものなら分けてほしい」
儀式科は、理数系に属する学科だ。理・数・英を主として、〝プログラミング〟の授業も組み込まれる。
だが、それ以上に大変な点があった。それは、魔術に関する授業である。
〝近代儀式〟の管理を行う〝儀式管理局(ぎしきかんりきょく)〟を希望する学生は、往々にして儀式科に入学するのが通例だ。
それゆえ〝管理区画〟を目指す学科は儀式科と呼ばれ、カリキュラムの方も、儀式管理局就任を基準として組み上げられていた。
近代儀式は法陣都市の要であり、その管理者は必然、都市の魔術の大本である〝七霊の書〟に記載された、七つの魔術全てに対して、一定以上の理解が必要となる。
ゆえに、儀式科では〝魔術基礎〟、〝魔術知識〟、〝儀式〟の授業が必修科目に加えられ、結果、夏休みにも漏れなく補習が付いてくる、との笑えないカリキュラムが完成した訳だった。
「こっちは、予習復習だけでも頭がパンクしそうなんだ。キミのために言っておくが、そんな余裕綽々な台詞は、人を選んで使いなよ?」
若干皮肉に聞こえるのは、政が若い証拠だろう。どこか羨ましげな目つきをしているのも、同世代に対する嫉妬だ。
「なあ、政? お前、何故そんなにも必死になって、打ち込むんだ?」
それでも不思議そうに、友人が尋ねる。