第五章:魔女――9
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かふっ! と、魔美の口から苦悶の吐息が漏れた。
薙ぎ払われた一撃に、肺が耐えられなかったのだ。
くの字になり、横っ飛びし、魔美は地に伏す。
「魔美さまっ!!」
契約者であり、恩人でもある魔美の窮地に、シャドーズも動揺を隠せないようだ。
咳き込み、苦しそうに呼吸する魔美と、彼女の上半身を支えるシャドーズ。
ユックリと、政が歩み寄り、薙刀の刀身を二人へと向けた。
「……情けを、掛けたつもりなのか? 月詠、政」
声を震わせ、虚ろな眼差しで、政の眼を見る魔美の口端は、しかし僅かに上がり、笑みの形をしていた。
「その刃で、……我を叩き切れば、全ては終わっていたというのに……」
挑発のような口振りに、政は迷わず、
「当たり前だろう」
言い切る。
「アンタだって……いや、誰よりも傷付いていたのは、黒衣崎さん。アンタなんだから」
黒衣崎魔美は、一連の騒動の首謀者だ。だが、彼女にしか罪がない、とはいえない。
彼女は彼女で、慕っていたアルバテルを奪われた、被害者でもあるのだ。
「だけど、アンタがした行為は許せないものだ。アンタが今やってることは、過去に、アルバテルって人がやられたことと、同じなんだから」
だから、
「もう止めよう、黒衣崎さん! このままじゃ、永遠に誰かが傷付いてしまう。負の連鎖は、どこかで食い止めなくちゃいけないんだ!」
必死の形相で、政は説得する。
「負の連鎖……か、理に、適っているな」
彼の様子を見上げつつ、魔美は吐息するように笑った。
「ドグマ・ルイ・コンスタンス――」
彼女はドグマの名を呼び、
「情報処理、完了次第……即、発動に移せ……!」
「承諾しました」
それでも、司令を下す。破滅に通ずる司令を。