終章:中立地帯――1
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七月二十三日。夏休みが始まってから、まだ四日目。
今日も〝法陣都市〟の空に雲は少ない。絶好のレジャー日和だ。
なのに、月詠政は酷く疲れていた。
「今日もまたお疲れモードだなあ、政。どうした?」
「どうしたもこうしたも、見れば分かるだろ?」
それこそ、目の下に隈ができるほどに。
視線は下向きに、ひたすら座席の端末を操作しながら、お気楽そうな友人の質問に答えた。
「何なんだ、この課題の量は! 片付けても片付けても一向に終わらないじゃないか、落ちゲーか!?」
「まあ、仕方ないよなあ。一日サボリの罪がここまで重いとは思わなかったよ」
「全くその通りだよ! 三倍って何だ、三倍って!」
そう。昨日の補習をサボった影響で、課題の量が著しく増えたのだ。
それにしても、三倍はやり過ぎじゃないだろうか? 昨日一日で、理不尽なことには慣れたつもりだったが、修行不足だったらしい。
いや、でも、事情が事情なんだから、情状酌量とかしてほしかったものだ。公言できない事情だから仕方ないけれど。
クラスメイトの補習が終わり、〝儀式科二年A組〟の教室内には若干名の生徒が残っている。
政は、不満たらたらに課題をこなしながら、自室で待っているだろう同居人の顔を思い浮かべ、何て言い訳しようかなあ、などと考え、独りごちた。
「昨日、あれだけシステム弄ったんだから、今日ぐらい休ませてくれよ……」
「ん? 何か言ったか?」
「あ、いや、独り言独り言。昨日の予習の話だよ」
嘯きながら、政は昨日のことを思い返す。
今日の自分が、法陣都市にいるその理由を。