終章:中立地帯――2
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四人に取って幸運だったのは、〝管理区画〟内一帯に人の姿がないことだった。
それは、黒衣崎魔美が、法陣都市を滅ぼすための布石だった訳だが、結果的に、証拠隠滅に適した環境となったのである。
政が最初に行ったのは、ドグマの〝魔導書〟、〝理の書〟のテキストデータ及び、それを基にした、対〝邪眼〟専用プログラムの破棄だった。
この二つが存在しては、ドグマと政が世界各国から命を狙われる、理由になってしまう。
そこで、〝儀式管理局〟でプログラムを。後に〝情報管理局〟まで移動して、テキストデータを削除した。
これで一先ず、命を狙われる心配はないだろう。ドグマの魔導書の内容は闇に葬られ、再びの解読が必要になったから。
しかし、危機的状況は変わっていない。結局の所、未だに四人は追われる立場だ。
ドグマは欧州から手配されており、三人にもテロリスト容疑が掛けられているからである。
島外への逃亡法を模索する中、閃いたのは哲也だった。
「待て。この状況、逆に利用できねえか?」
彼が考えついたのは、自分たちの立場を利用する方法だ。
被害者として。〝魔導司書保護団体〟の一員としての立場を。
今回の件は、黒衣崎魔美を首謀者としたものだが、〝七柱軍〟や〝黎明警察署〟も関わった、大規模な不祥事である。
そして、その詳細は当事者である哲也たち自身が、最も知っていた。
そこで、
「保護団体名義でリークすりゃあ、良いんだよ! アンタたちのやったこと、世に晒しても良いんですか? ……ってな!」
今回のやり方は余りにも強引すぎるものだ。それこそ、違法手段や犯罪行為がふんだんに盛り込まれている。
その内容が、世に知れ渡れば、確実に世論は逆転するだろう。
〝魔導司書〟の人権が、そこまで侵害されて許されるのか? と。
ともすれば、世界の情勢も魔導司書保護に回るかもしれないのだ。
だから、そう牽制しておけば、迂闊に軍も手を出せない。言うなれば、睨み合いのようなものだ。
こうして、法陣都市は中立地帯と化した。四人が。いや、魔導司書と契約者が平穏に暮らせる安全圏へと、人知れず変わったのだ。