第一章:追われる少女――5
☆ ☆ ☆
生活区画一番地は、住宅や団地が並び自然公園もある、正真正銘の生活空間だ。
学生や、軍に属さない一般人。つまり大半の島民は、ここに住民登録してある。
そんな生活区画一番地のスーパーマーケット〝マルボシ〟は、主婦層に人気が高い優良店だ。何と言っても、特売日があるところが。
品質は他店と変わらないが、安いことは正義であると、声高く宣言しておく。
友人一同からは、一〇代でそんなこと言ってお前大丈夫か? と本当に心配されてショックだったが、自分は悟りの領域にいるんだ。だから、大丈夫。
閑話休題。スーパーマーケットマルボシは、自分もご用達だった。
「何とか、ゲットした……。これで、朝食はしばらく問題ないか」
戦利品のビニール袋を提げながら、政は自動ドアを潜り、外に出る。
相も変わらず、茹だるように、親の敵のように暑い。
いくつか本も買いたいが、このぬるま湯にも似た大気の中、うかうかしていては、労して手に入れた卵が腐ってしまう。一先ず帰宅して、冷蔵庫に預けるべきだ。
自転車のかごにビニール袋。後部にバッグを乗っけて、政はペダルを漕ぎ出した。
……涙ぐましい生活してるなあ……、オレ――。
悲しくもないのに涙が出てきそうだ。
一冊か二冊の教本のために、節約節約。最終目的が、住民の生活安泰。まるで、即身仏のような人生だ。
その内、聖人リストとかできたら、名を連ねるんじゃないだろうか?
などなど、バカげた妄想の合間に、友人との会話を思い出す。
――どっちかっつったら、そっちの方が似合ってると思うぞ。何で諦めたんだよ――。
確かに、夢だった。憧れていたし、今でも未練がある。
それは果たして、本土にて軍に属する、姉に対してのジェラシーかどうかは、分からないが。
……それでも、才能がなけりゃ仕方ないだろう――?
魔術にも、もちろん才能の介入はある。
使えるか、使えないかというよりは、使いこなせるか否かというものだ。
要するに、同じものを利用して〝一〟の出力を発揮できるか、〝一〇〇〟を超える出力をたたき出せるか。
自分には、せいぜい一〇が限度だろう。七柱軍の主武装〝神霊兵器〟の真価を、政は引き出せないのだ。
――だから、第二候補に力を注いでいるんだよなあ……。
少なくとも、神霊魔術の才能よりも、勉学の才能が秀でていると自負している。
軍部区画にある〝軍部学校〟で、訓練の日々を送るよりも、ずっと有意義に生きている筈だ。
ただし、図抜けているとは言えない。
自分の成績は上の下だ。同学年の中では、上位一〇人に入れば御の字と言うところだろうか。
サボりながらトップ三かっさらう友人とは違い、必死に努力してその程度。他より頭一つだけ抜きん出ているくらいだ。
第二候補と言えど、難関は難関だった。
「それでも、やるしかないんだよ……」
先天的に魔術の才能を得ることが敵わなかった自分に、七柱軍は無理だ。だが、後天的な努力によって、知能面は補完できる。
だから、本日のスケジュールも、ミッチリと充填されていた。
「次は、〝黎明堂書店〟だな」