unrealityⅡーⅠ
翼があれば、空が飛べるのだろうか。
ロリポップを咥えながら、そんなことをいつもの場所で考えていた。
それこそ、遠くから見ればタバコでも吸ってるように見えるかな……なんて、そう思っただけだ。
そうしてしばし、待ち人のことを考えていると、屋上の扉が開く。
「また今日も、空を見てるのか」
「地面ばっか見てるヤツなんかより、まだ健康的だろ?」
そんな挨拶もほどほどに、その拳に擦り傷やら絆創膏やらが増えていることに気づく。
殴られたようには見えないけど、少し疲れてるようにも感じる。
「また喧嘩?」
「ああ……良く分からんヤツに絡まれて、軽く捻ってやったら、色々と大量に沸いてな」
「何だそれ、ゴキ○リか?」
「害があるという意味では、それじゃない方が何十倍もしつこいがな」
いつも通り、私の隣に腰かけて、宗司は面倒そうに溜息をつく。
口の中に広がる甘い味を楽しみつつ、私はゆっくりと身体を伸ばす。
それで、と話を切り出したのは宗司の方だった。
「例のリーズとかいうヤツのこと、調べたんだろ?」
「まあね。調べてみたけど、良く分からないオカルトに行きつくんだよね」
「……オカルト?」
さも不思議そうな表情の宗司に、とりあえず経緯を説明するとしよう。
それこそリーズと検索したところで何か出てくるはずもないし、ここ最近の事件を漁ってみたのだ。
一応のところ、アンドロイドやバイオロイドというのは人に危害を加えるものではない、という前提があったのだけど。
それはそれとして、色々と探していると、どうも検索ワードに符号しないようなオカルト記事が出てくるのだ。
「怪奇現象……なんて名前で騒いでたけど、どれもこれも眉唾な記事でさ」
「そりゃ、好き勝手に自分の趣味を書き込むんだから、信憑性よりもネタ性を好むだろ、ネットの人間は」
「そうなんだけどさ、どうもこの周辺で起こってる事件でね」
そこまで言うと、疑い深い宗司が少し、聞き入る姿勢に入った。
私は昨日のうちに集めた情報を整理しつつ、適当に打ち出しておいた記事を胸ポケットから取り出す。
これがやってみたかったんだよなぁ、とか一人で楽しみながら、呆れた表情をしている宗司に資料を手渡す。
「せめてもう少しマシなところに保存してくれ……」
「えー、面白いのに」
こっちは嬉しくねえよ、と恨めしそうにいいながら、宗司はそれに目を通していく。
ちぇっ、と心の中でそっぽ向いて、私は私で、集めておいた資料を見直すとする。
我ながらいい出来だ、と思っていたところ、なあ、というぶっきらぼうな声が横から飛んできた。
「この画像に映ってるこの黒い影……なんだ?」
「んー?ああ、私も気になったんだけど、こいつに関連するものは見つからなかったよ。撮影者の影だ、だとか、加工したもんだろ、とか言われてる」
「確かに、それこそ雑に画像を加工したみたいな影だが……これ、ノイズじゃないのか」
というと?と、少し首をかしげて説明を求める。
「先ず少なくとも、周囲の状況を見るに、影は手前側に伸びてるんだし、撮影者の影じゃない……それに、ここは人通りがほとんどない」
「なんで?」
「少し入り組んでてな……近道には使えるかも知れないが、この道順を知らないヤツは多い」
つまるところ、宗司はそこを日常的に使っている、ということだろう。
「だから、この影は人じゃないってこと?」
「そうなるな。しかも、いくら加工とはいえ、こんなドット抜けやら映像のズレ……少なくとも素人には無理な芸当だ」
私には良く分からないのだが、宗司の言うことならば信用できる。
だとするなら、これは偶然が起こしたものなのか……それとも、リーズに関連していることなのか。
ともかく、色々と興味をそそられる話であることは確かだった。
「うーん、面白そうになってきた!」
そんな調子の私を見て、宗司は呆れたように笑っている。
そうしてひとしきり楽しんで、もう日も暮れかけていることに気づく。
「今日は、リーズたんを尾行しようと思う」
「好きにしろ……こっちも、好きにやらせてもらう」
「ああ、そうしてくれ。いつかまた、相手してやるから、さ」
意味深な笑みを浮かべてやって、私は踵を返す。
最後に少しだけ残っていた飴の部分を噛み砕いて、今日もまた、私は気ままに生きる。
いつかなくなってしまうその時まで。私は私であったと、そう誇るために。
「さ、行こう。歩けなくなるまでは、足掻いてやるさ」
それが、光崎世界の生き方だ。