蒸れる
ザッザッザッ!
草葉をかき分けて走り込む。
パスッ!
「っ!」
飛び込み、隠れる。背の高い草のお陰でこちらの位置は相手には上手いこと伝わっていない。だがそれも時間の問題だ。
分が悪い。無線も繋がらない。恐らくこちらはもう俺しか残っていない。口元を隠している布製のフェイスガードを引きづりおろして一息。用意された障害物は俺がいるところを含めてあと三つ。何も音がしないのが逆に怖い。
鳥肌が立っているのが自分でもわかる。
カラカラカラ…。
「…あかん」
カッ!と視覚と聴覚が飛ぶ。
視界が元に戻った時には、目の前に銃口が突きつけられていた。
「…降参」
「ふふ、やーりぃ」
「女かよ…。くっそ、悔しいな」
「女だからって、関係ないでしょ」
ゴーグルとフェイスガードを外した彼女は、俺が思っていたよりも綺麗だった。
「…そうだな。こんな美人に負けるなら悪くない」
「びじ…!からかわないでよ」
突きつけた銃口を下げる。コルトパイソンか…渋いな。
試合終了の合図を送り、ブレイクタイム。俺はメットとガードを外し、迷彩服の上体部分だけを脱いで袖を腹で結んで、ベンチで持ってきた麦茶を飲んでいた。
いくら冬の入り口にいるとはいえ、完全装備で走り回ってたらそりゃ暑い。暑い上に蒸れるからタチが悪い。
さっきのメンツは一応俺に謝ってきた。とある店舗が開催しているフリーなサバゲー大会で、シャッフルで組まれた見ず知らずの人たちだったが、流石に俺一人残して全滅したことは気に病んだらしい。
つってもその後はそそくさとどっかいってしまったが…。
トス、と俺の隣に誰かが座る。ベンチの数もそんなにないから、こういう事はよくある事だ。俺も座り直す。
「お疲れ様。汗すごいね」
こういうことはあまりなかった。
「新陳代謝がいいんだ。夏でも冬でもこんな感じさ」
さっきのラストキルをとった彼女が俺の隣に座る。汗すごいね、なんて言う割に彼女も俺と同じような格好をしてタオルで汗を拭いていた。
「人の事言えないんじゃないか?」
「あはは、まぁね。みんなよく着たままでいられるなーっていつも思う」
麦茶を飲みながら、横目で彼女を見る。
「っ、ごっほ」
「あり、大丈夫?」
「だい、ごほ、大丈夫。なんでこっち見てるんだ」
「あなただってこっちみてたじゃない」
「う…」
そりゃあ見るだろうよ。そんな薄着で、体の線も丸わかりなのに、見るなって方が無理なんだ。
面積が少ないタンクトップの隙間から、何か見えそうな、見たいような願望や欲望が湧いてくる。
…落ち着け、猿じゃあるまいし。
ちらり。
「…?」
いや、まぁ…。
「蒸れるもの、悪くないなって思っただけさ」