終末
見渡す限り真っ赤だった…
身体の奥まで入った空気は、肺も食道も攻撃し、焼ける痛みと共に空気の侵入を遮る。
「陽子、しっかりしろ!」
夫が私を揺らして意識を確かめた。
「誠さん、水音は?」
小学校に行き始めたばかりの一人娘の消息を尋ねると夫は静かに首を左右に振った。
私の本能が出ない声を絞り出しながら「いや!」と叫ぼうとしたが喉の奥からの痛みは咳にしかならなかった。
遠くで何度目かの爆発音がした…
たった数分前まで明るい家族の中に居た私たちにもうその光景は無い。
爆発の衝撃が遅れてやって来たが、夫が私を庇うように盾となり、その顔が苦痛で歪む。よく見ると私は大きな木の根元の空洞に入れられていて入り口に夫が居たのだった。
「陽子、僕はもうダメみたいだ…君を最後まで守れなくてごめん。君は最後まで希望を捨てないで欲しい。さようなら、君に会えて倖わせだった…」
「誠さん! 誠さん…」
夫は静かに目を閉じて私に身体を預けた。溢れ出る涙さえもすぐに蒸発してしまう、叫び声は上げられず、喉はカラカラとなり空気も吸えず、私は気を失った…