七、誕生
電話の音が隣の部屋で響いている。
いつ連絡があるかわからないから、携帯電話を枕元に置く事にしていたのに、それも忘れて寝てしまったみたいだった。
今日一日遊びまわって悲しい別れを経験し帰宅してそのまま眠ってしまったようだ。
電話の音で起こされたくらいで体がだるい気がする。もう昔のようには体の疲れが取れない自分に嫌気を刺すが、二十歳の時は十代の頃が懐かしかった気もするし、もしかしたら一生若い頃に懐かしさを感じて生きていくものなのだろうか?
(そんな事よりも電話が…)
案外冷静でいる自分に可笑しさを覚えつつ僕は電話に出た。
「はい、弘前です」
「お義兄さん、おはよう。いま姉さんが分娩室に入ったわよ、すぐ来てね」
睦実の妹の友里ちゃんだった。友里ちゃんは言いたい事だけ言うとすぐに電話を切ってしまった。
(自分が産む訳でもないのに。)
僕は少し微笑んでいたと思う、でも体は勝手に身支度を終らせていた。
(女の子だよな多分…)
僕は睦実の入院している市民病院の産婦人科に向かうために実家を出たが、流石に飛んでいく事もできずJRの駅へと移動した。
睦実は、医者もビックリするほどの安産で女の子を出産した。
「ただいま」
生まれたばかりの我が娘が、そんな目で僕を見た気がした。
その上を青白い小さな光が流れた気がした。
「蛍?」
まさか、病院に蛍がいるはずもないが、僕には二日前の蛍がやってきたのだと思えたのだった。
「姉さん、本当にすぐ会えたね」
娘の顔を見つめながら、将来のじゃじゃ馬ぶりを考えると苦笑がこぼれた。