4 今こそ火を噴け、ビーム火縄銃!

「うーん……。これからどうしようかな」
使い物にならない火縄銃を肩に担ぎ、とりあえず長浜城から出てメイン会場の黒壁スクエアへ向かう。
襲われたばかりだから、商店街ではさぞ激しい斬り合いが行われてるのだろうと警戒したけど、意外にも街は平和だった。
大道芸人風の参加者たちがガマの薬売りや忍者ショーなどをして、観光客から投げ銭をもらっている。

「……そうか。パフォーマーを襲えば観客からブーイングされる。そうなると投げ銭をもらえなくなるから戦闘が起きないんだ」

なるほどな、と思いながら歩いてると、黒壁スクエアの前から「キエー!」と気迫に満ちた叫び声が聞こえてきた。何事かと行ってみると、そこではあのボディビルダーさんと剣道着姿の女性が一対一の決闘をしてた。審判員をつけたバトルだ。

「へぇ〜こっちはバトルで稼いでるのか。勝ったら小判を総取り。投げ銭もあるから相当稼げるかも」

メイン会場ではパフォーマンス部門、バトル部門といった具合に棲み分けができてるみたいだ。

「みんな順調に小判を稼いでるようだけど……私はどうしようかな」

火縄銃を抱えて溜め息をつく私。
賞金はほしいけど「討ち死」して全世界中に変顔を晒したくない。
そもそも小判を手に入れる手段が私にはない……。うーむと唸っているときだ。

「きゃー」と路地から悲鳴が聞こえた。
痴漢!? それとも引ったくり!?

悲鳴が聞こえた方へ走ると、小さな女の子を囲む二人組の女がいた。
見れば二人組は槍を持ち、子供の方は刀を持ってる。
痴漢でも強盗でもなくコンテスト参加者による争いのようだ。

「その『菊水飴』をよこしな。『300小判』のボーナスアイテムだ。おとなしく渡せば斬りはしないよ」

え、300小判?

そういえばボーナスアイテム的なものがあると言ってたけど、それが『菊水飴』だったみたいだ。
あ、菊水飴っていうのは350年の伝統と歴史がある水飴だ。めっちゃうまい。
見たところあの子供がそれを手に入れ、女二人組が奪おうとしてるようだ。まぁ、ルール的には問題ないけど……。

「ちょっと、あんたら! 子供から強盗するなんてよくないよ!」

気がついたら飛び出してた。
これは私の悪い癖だ。後先、考えず飛び入り参加しちゃう私の悪い癖。

「ん? なんだい、あんた。この子の友達?」
「あ、まるで関係のない子です」
「それじゃ、邪魔をしないでいてくれるかな? あっ! あんた、火縄銃を持ってるじゃん! 仲間にならない? 報酬は均等に山分けするよ」

強盗からスカウトされた。
いや、強盗というか、普通のプレイヤーだ。提示した条件も至極まっとうだし、よく見れば綺麗なお姉さんだし。
だから、悩んだ。
彼女たちの仲間になれば小判が手に入る。討ち死にするリスクも減らせるだろう。

しかし。

袋小路に追い詰められた女の子と眼が合った。
助けてくれと眼で訴えてる。いくら「遊び」とはいえ、ここで子供を見捨てるわけにはいかない。

長浜に根を下ろして400年。
友山家の長女として、かわいい女の子を見捨てることなんてできないのだ。

「スカウトは嬉しい。でも、子供に乱暴狼藉をくわえる輩と徒党を組むつもりはないわ!」

啖呵を切って火縄銃を構える。
たじろぐ二人組だけど、そのうちの一人が私の手元を見て笑い出した。

「あはは! あんた、火縄に火をつけてないじゃない! それじゃ撃てないよ!」

火縄に火? 火縄銃っていうだけあって銃から縄がぶら下がってる。けど、これって火をつけるものなの? 

「えっと……この縄にライターで火をつければいいんですか? 私、使い方を知らないんですよ」
「私だって知らないよ! 火事になっても困るからボタンでも付いてるんじゃないの!?」

なんとなく縄の先端を触ってみるとボタンがあった。カチッと押してみる。するとLED電球でも入ってるのか縄の先が仄かに赤く光りだした。おお、なんか撃てそうな予感。
とりあえず、この状態で引き金を引いてみる。しかし、弾は出ない。

「あの、火を点けても撃てませんが……」
「馬鹿な子だね! 縄の先を火挟みにつけるんだよ! そうしなきゃ火薬に火をつけられないでしょ!」

火挟み?
ああ、さっき引き金を引いたらカチッと動いたこれのことか。火挟みって名前らしいパーツを持ち上げて、縄の光ってるところを挟む。

「できた」
「あとは撃つだけだよ……ってしまった!」

私は大変申し訳なく思ったけど親切なお姉さんを撃った。
爆音と同時に「バスン!」とお姉さんの胴にピンク色のビームが命中し、吹っ飛んだ。

「やった」

初の戦果だ!
しかも懐のスマホからチャリンチャリンと音が鳴ってる。お姉さんがこれまでに集めた小判が私に振り込まれてるのだ。

「おのれ! 姐さんの仇!」
「ふふん。火縄銃の使い方は覚えた。もう怖くないわ。覚悟!」

しかし、またもや弾が出ない。なぜだ!? さっきは雷鳴の如く火を噴いたというのに。

「馬鹿ね! 火縄銃が弾籠めしないで発射できるはずないでしょ! 信長の三段撃ちとか歴史の授業で習わなかった?」
習った。
火縄銃は弾を込めるのに時間がかかるから連発できない。そこで織田信長は、火薬を入れる係、弾を込める係、撃つ係といった感じで運用したんだった。

「この火縄銃も連発できないのか!」
「そうよ! そして弾籠めしてるあいだに私はあなたを撃つ!」

さすがに今度は弾籠めする時間を与えてくれなかった。しかし馬鹿な私よりもお姉さんはもっと馬鹿だった。
だって、自分たちが襲っていた子供が刀を持ってることをすっかり忘れ、背中を向けてるんだもん。

「えい!」

背後からグサリと背中を刺され、変顔をして倒れるお姉さん。
しばらくして身体の自由が利くようになると、二人組は頭を掻きながら退場していった。

いやぁ、よかった、よかった。
人助けできたし、火縄銃の使い方もわかった。弾籠めに気をつければ威力のある素晴らしい武器だ、この火縄銃は。

「あ、あのう!」
「おお、少女よ。君のおかげで銃の使い方がわかった。感謝するよ!」

お礼を言うと逆に女の子の方が頭を下げた。

「い、いえ! 感謝するのはこちらの方です! 助けてもらったんですから!」
「え、そう? 子供を助けるなんて当たり前のことじゃん。感謝することないって」
「いえいえ! 本当にありがとうございました。あやうく30万円もらえないところでした!」

感謝されて気分がいい。
それはともかく可愛い子だ。
歳は小五くらい。整った顔立ちで、少し垂れ目なところが可愛い。ショートの髪型もよく似合ってて、色素が薄い系っていうのかな、雪みたいな白い肌が綺麗だ。
けど、こんな小学生がどうして30万円もの大金をほしがるのだろう?

「えっと、あなたお名前は?」
「も、申し遅れました! 石田雪花と言います!」
「雪花ちゃん。あなたもお金目当てで参加したの?」
「そ、そうです」

吃り気味なのは、年上の私と話して緊張してるからではなく、元々そういう口調なのだろう。

「お金、何に使おうとしてるの?」

尋ねると雪花ちゃんは眼を背けた。言いたくなさそうだ。

「あ、べつに言いたくなきゃかまわないよ。なんとなく聞いただけだし」

どうせ、ここでお別れだ。無理に聞こうというつもりはなかったのだが、彼女は私に瞳を向けると言った。

「ママの入院代にしようと思ってるんです」
「入院代?」
「はい。ママが病気になって、だいぶ長く入院してて、でも家にはあんまりお金がなくて……。そんなときこのイベントを知ったんです。鎧さえ着れば子供でも参加できるって」

こりゃシリアスな参加動機だ。

女子小学生が親の入院代のために参戦なんて、いつの時代の話だよ。
けれど、よく見れば鎧はボロボロ。ついでに「お金がない」というだけあって、着てる服も身体のサイズにあってないし、少し黄ばんでるように見える。
じっと私を見つめる彼女の目に気づいて「困った」と思った。

このまま「そんじゃ、がんばって」と言って別れるのは簡単だ。しかし、こんな子供が弓使いのアイドルやボディビルダーさんと渡り合うのは無理だと思う。
唯一、賞金をもらえる可能性があるとすれば、「300小判」になるボーナスアイテムを持ってることだけど、城まで運ぶのは難しいだろう。

だけど、そこに私が加わったら?

雪花ちゃんから「菊水飴」を奪おうとする輩を私が火縄銃で援護するのだ。
うまくできるかわからないけど、城までたどり着ける確率は大きくあがると思う。
ただ、問題はこの子が優勝しても私に何のメリットもないことだ。つまり、賞金30万円ゲットの可能性がなくなる。

だけど……

「ガチでお金がほしいのね? 雪花ちゃん」
「は、はい。ガチでほしいです、お金」

そもそも勝ち目のないコンテストだ。火縄銃なんてレア装備を持ってても、小判を貯めることもできず、いずれ誰かに斬られて失格になると思う。
だったら「自己満足」をメリットにしてやれ!

「雪花ちゃん。今からあなたを私が全力でサポートする」
「え!?」
「これも何かの縁よ! この友山アカネがあなたのママの入院費をなんとかする!」

やのゆい
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やのゆい

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