5 女子小学生との共闘、そして!
こうして私は孝行者の美少女を手に入れた。
まずは商店街から城の手前まで移動。そして見通しのきく商店の屋上に陣取る。
ここなら商店街から城へ向かう人を狙撃できるはず。
サポートするにしても自分に何ができるか知っておかねばならない。だからここでビーム火縄銃の性能を見極めるのだ。
「あの、アカネさん。本当にいいんですか? 助けてもらって……」
「だからいいんだってば。それより誰か近づいてきたら教えてね。後ろはまかせたよ。いいね?」
「は、はい!」
火縄銃の弾籠めをして狙撃準備完了。
スナイパーっぽく地面に伏せて銃を構える。たしか映画の「レオン」でこんなふうに殺れって言ってた。レオンの教えならまちがいはないはず。
そこへちょうどカモがやってきた。大道芸を披露していた女の人だ。手に持っているのは長浜名物の「堅ボーロ」。
「あっ! あの長浜名物もボーナスアイテムです。公式ブログにそう紹介されてました」
雪花ちゃんがそう教えてくれた。スマホでちらりと確認。たしかに「100小判」のボーナスアイテムだ。持ち主はこっちに気づいてない。
だから撃つ。
バシュンと吸い込まれるように大道芸人の背中に命中。変顔をして倒れた。
「やりましたね!」
「意外な才能があったみたい。それより私が援護するからあの名物を拾ってきて。城へ届ける練習だよ」
「は、はい」
雪花ちゃんが道に出るあいだに弾籠めをすませる。リロード時間はおよそ1分。敵を打ち損じればアウトだ。一撃必中を心がけねば……。
そうこうしてるあいだに雪花ちゃんが階段を降り、建物の脇から私を見上げていた。周囲を見渡すところ観光客ばかりで敵はいなそうだ。行けと手で合図する。
たたたたた、と走りだす雪花ちゃん。
意外と脚が速い。
あっという間に長浜名物までたどり着く。敵が襲ってくる様子もない。警戒しすぎだったかなぁと思ったそのときだ。正面の建物の三階あたりで撮影ドローンがホバリングしているのに気づいた。
ふと、アイドルに助けられたときのことを思い出した。あのときもドローンが飛び回ってた。
つまり、ドローンがいるところには敵がいるってこと。眼をこらすと長い棒とその上に赤い光の点が動くのが見えた。あれは……
「火縄銃!」
一瞬だ。
敵よりも一瞬早く撃つことができた。撃った先でピンクの閃光が弾け、その光が消えるとドローンが散っていった。どうやら倒せたみたいだ。
ふぅと息ついてると雪花ちゃんが戻ってきた。
「す、すごいですね、アカネさんは! ドローンの位置から敵の居場所を特定して仕留めるなんてすごすぎです!」
彼女の中で私はヒーローになってしまったみたい。
だけど、思ってたよりきつい。
今だってほんの少し発見が遅れてたら雪花ちゃんは撃たれてた。つまりゲームオーバー。雪花ちゃんは入院費を払えず、高利貸しからお金を借りてどん底の人生に突入。……あくまで想像だけどプレッシャーを感じる。
それでも一度請け負ってしまった以上、投げ出すわけにはいかない。とりあえず今の狙撃で50mくらい離れた相手なら当てられることがわかった。
「アカネさん」
「なにかな、雪花ちゃん」
「アプリに獲得小判数がアップされました。1位の人は250小判集めてるみたいです」
「すごいわね。誰なの、それ」
「ベルセルクって人です。槍使いみたいですね」
あのボディビルダーさんだろう。対戦で勝ちまくってるみたいだ。
「そういえば、残り時間は?」
「あと30分ほどです」
トップが「250小判」で、こっちにはボーナスアイテムが「400小判」分ある。
これらを松阪くんのところへ持っていけば優勝できる計算。
ここから掩護射撃をすれば、きっと無事に送り届けられる。そう思ったときだ。
「あっ」
「今度は何?」
「参加者さんが五人、城に向かって一斉に走り出しました」
見ると、アスリートっぽい人たちが五人、走っていた。けど、様子がおかしい。フォーメーションを組んで走ってる。
「みんな敵同士のはずなのに、何やってるんだろ、あの人たち」
その理由はすぐわかった。
門の前に彼らが彼らがたどり着いたときだ。城の中から矢が放たれ、門を潜る前に全滅したのである。
城から弓矢ってもしかして……。
「アカネさん、見てください。順位に変動が起きました。上田京香さんって人が二位になりましたよ」
上田京香って、あのアイドルだ。
なるほど……。あの子は城から出ず、長浜名産を届けにくる人をひたすら弓で射ってたんだ。考えてみれば城はそもそも防衛するための施設。弓矢があれば一方的に攻撃できる。地の利を活かして戦ってるわけだ。
「ど、どうしましょう! あれじゃあ、城へ届けられませんよ……あっ! また参加者が走り出しました」
今度は10人が一斉にダッシュを始めた。
もはや彼女たちの目的は優勝ではなく、城の中に陣取って戦う卑怯なアイドルをやっつけようとしてるようだ。
しかし猛ダッシュも虚しく、次々と矢を受けて倒れていく。城に篭もってることもそうだが、あのアイドル、ガチで弓がうまい。
アイドルなんだからハートでも射貫いてればいいのに!
罵りはさておき、弓矢アイドルによって難攻不落の要塞と化した長浜城。
たどり着くことができなければ、ボーナスアイテムを持っていても優勝できない。
ここはアスリート系の人たちと共闘すべきか? いや、無理だ。いくら雪花ちゃんの脚が速くてもさっきの人たちと同じように途中でやられてしまう。
「……アカネさん。諦めましょう」
雪花ちゃんがそう言った。
「馬鹿! なに言ってんの! 賞金30万円もらうんでしょ!?」
「もらいたいですけど、大人が失敗してるんです。私には無理です。ママの入院代はアルバイトしてなんとかします」
雪花ちゃんがとんでもないことを言い出した。
「この世間知らず! 小学生がバイトなんて無理に決まってるでしょ!」
「でも、こっそり雇ってくれるところがあるかもしれません」
「あってもやっちゃだめ!」
「でも……もうそれしか」
「だめなもんはだめ! 入院してるママが知ったら凹むよ! 子供が入院費のために働くとか死ぬほど凹む! うちの死んだ父さんがそうだったんだから、まちがいない!」
ああ、そうだ。
私もお父さんが入院したとき雪花ちゃんと似たような境遇に陥ってバイトしたんだ。
それを知ったお父さんは落ち込んで余命宣告より早く死んじゃった。この子にあんな思いをさせたくない。
「いい? 私がどんな手を使ってでも優勝させてあげる。絶対だ」
「なんでアカネさんはそんな一生懸命なんですか? 私は見ず知らずの他人なのに……」
「うっさい! さっきまで他人だったけど、もう知り合いだ! 長浜の人間は情に厚いんだ! 人の好意は黙って受け取っておけ!」
さぁ、考えろ私。
敵は難攻不落の要塞に立てこもったアイドル。目下、自慢の弓矢で敵を寄せ付けない。おそらく正面攻撃で倒すことは不可能だ。
だったら、どうする?
壁の裏に隠れつつ辺りを見回す。
門を突破しようと突撃を繰り返すアスリートたちと声援を送る観光客たちの姿が見えた。
観光客がうざい。
こっちの事情も知らず、脳天気に応援してる部外者を見てるとイラッとする。
「……部外者?」
いや、このコンテストでは観光客たちも参加者だ。
主催者が「全員参加型のイベント」だって言ってた。そんな人たちが大通りに100人ほどいる。
そして、私たちの敵は売出し中のアイドル……。
「……見えたぞ、勝機が」
「アカネさん……。いったい何をお考えなのです?」
「とりあえず私を信じてその刀をちょうだい」
「あ、はい」
刀ゲット。これで近接攻撃できるようなった。火縄銃と刀で遠近両用の姫武将誕生だ。
うまくやれるかわからないけど、残り時間でやれるのはこれしかない。
「よし、城へ行くよ、雪花ちゃん! 賞金はわたしたちが掴む!」