6 決戦! 長浜城!
大通りへ出て、私たちは観光客の背後へ回り込んだ。
「今のは惜しかったな! 門までもう少しだったのに!」
「ええい、 気合いを見せんか! 情けない!」
勝手なことを言ってる観光客たち。だったらご自分でやってもらおうじゃないか。
私は観光客の背中を狙って火縄銃を構える。そして、迷うことなく引き金を引いた。
商店街に発砲音が鳴り響き、観光客のおっちゃんが変顔をして倒れた。途端、キャーとかワァーとか皆が悲鳴をあげ始めた。
「全員、動くな!」
「お、お嬢ちゃん、これはいったい…!?」
「うっさい! 勝手にしゃべるな!」
雪花ちゃんの刀を抜いて問答無用で斬る。ビビッと変顔をして倒れるおっさん。
みんな、「ヒィ」とか「ヒェ」とか言って顔を青くする。もはや彼らの眼に映る私の姿はテロリストだ。
「よく聞きなさい! 私の言うことを聞けば、危害はくわえない! しかし逃げようとしたり、勝手なことをすれば容赦なく撃つ! 女子供であっても容赦はしない! 変顔にする!」
お姉さんやおばさんたちが鬼か悪魔でも見るような怯えた目をして私を見た。
「あのね、女子高生さん。城から矢が飛んでくるの。危ないから…ぎゃー」
私は勝手にしゃべったおばさんを刀で突いた。
「しゃべるとなと言ったはずだ! さぁ、城へ向かって歩きなさい!」
観光客たちは観念してようやく行進を始めてくれた。
門まで20m、15m、そろそろ撃ってくる頃だ。
城の中からヒュンと矢が放たれた。
可哀想に前列のおばさんに命中して変顔をして倒れた。そこで私は大声を張り上げる。
「あー! 上田京香が一般人を撃ったぁ! 罪もない観光客を弓で撃ちましたぁ! 最低のアイドルだー!」
観光客たちから「お前が言うな」という無言の声が聞こえたが、目論見通りアイドルには効果があったようだ。
「卑怯よ! 一般の方を盾にするとかありえないっしょ!」
「うっさい! 勝つためだ! 30万円のためだ! こんな一般人どもの命などゴミ屑のようなもんだ! ふはは!」
ゴミ屑扱いした観光客から「このクソ女子高生!」という怒りの空気が伝わってきた。
「あ、あのアカネさん。これはいくらなんでも卑怯すぎでは…」
「雪花ちゃんは黙って一般人のふりをしてなさい。私の仲間だってバレたら賞金がもらえなくなる」
「でも」
「いいから!」
観光振興のイベントで観光客を人質にとって長浜城へ乗り込むなんて運営者からすれば悪夢だ。きっと、私は失格になるだろう。しかしそれは想定内だ。雪花ちゃんを優勝させるため私は捨て石になる。
「さぁ、早く城に入るのよ! 急いで! 言うことを聞かないと撃つ!」
足が止まっていた観光客を脅して歩かせ、ついに門を潜る。どうやらアイドルは私を狙撃することを諦め、身を隠したらしい。
あともう少しだ。
この石段を昇って松阪くんのところへ雪花ちゃんを連れていけば作戦完了。私の勝ちだ。
しかし。
「勝負よ! アカネ!」
可憐な姫武将が私の前に立ちはだかった。
上田京香だ。弓を構えて観光客越しに私を狙っている。
かっけー!
さすがアイドル。人質の観光客から歓声が起きた。もはやヒーローだ。ヒーローの登場は想定外だったけど対処可能だ。
「雪花ちゃん。準備はいいね?」
「は、はい。やれます」
人質を挟んで睨み合うアイドルの瞳が、私の後ろから迫る足音に気づいて揺れた。
上田京香はイベント開始から城に篭もって出入り口を塞いでいた。
そのため参加者たちは集めた長浜名物を運べず足止めされていた。しかし、その障害を私は取り除いた。それによって起きることは誰にでも想像できるはずだ。
「うおおおおおお!」
長浜名物を担いだ参加者の大群が土煙をあげてやってきた。
今だ!
「行って! 雪花ちゃん!」
「はい!」
走り出す雪花ちゃん。
後ろからアスリート武将たちが追いかける。
先頭はボディビルダーさんだ。格闘家のくせに速すぎない!? チートでしょ、あの人!
というか、小判の獲得数ナンバーワンのあの人が長浜名産を届ければ、私たちは負けてしまう!
「アカネ! どこを見てるの!」
助けに行きたいけど目の前では上田京香が弓で私を狙ってる。
さらに撮影ドローンが三台も集まって私たちの決闘を撮影してる。「正義のアイドル武将VS悪のJK」なんて格好のネタだ。きっとこの戦い、ネットで同級生も見てるはず。負けたら変顔を撮られて、明日は話題の人。そんなのは嫌だ。
けどさ…。
ここまでやったら最後までやり遂げなきゃでしょ!
「来い! 上田京香! あんたの変顔をネットに晒してやる!」
「させるか!」
矢が放たれた。私も引き金を引く。
愛銃の火挟みが跳ね降り、火皿を叩きつける。
火縄銃の内蔵スピーカーが大音量の爆音を発し、ビームの粒子が敵に向かって勢いよく発射される。
ビームはアイドル武将の兜を掠め、そのまま飛んでいった。そして、私の胸には上田京香が放った矢が突き刺さる。
「「勝った…!」」
同時に叫んだ。
矢を受けた私はピンクの閃光に包まれ、激しく痙攣。そして表情筋が崩壊してドローンの真正面で変顔になった。
しかし私は勝った。
アイドル上田京香のずっと後ろでボディビルダーさんが倒れ、さらにその後ろを走っていたアスリートたちが蹴躓いて転んでいく。そんな彼女たちを踏み越えて、松阪くんのところへたどり着いたのは雪花ちゃんだ。
そう。私は勝った。
まぁ、変顔を激写されて恥ずかしいけどさ。