思い出

 チカから必ず寄ってほしいと言われたので、絢子はビラを配り終えた後、チカの店へと向かった。店の品はすでに三分の一程はけ、チカの気分は上々であった。 
「座って、座って!」
 とチカが腰かけていたイスに絢子を座らせる。今は落ち着いており客はいない。
「ジュンちゃんのおかげで大分売れたよ!」
「そう、よかったね」
「さっきまで本当地獄だったんだから。さっぱり売れなかったからさ。本当ありがとう! ジュンちゃん様々だよ~」
 と拝みだす。
「やめてよ、恥ずかしい」
「だけどよかったの? 今日は用事があって忙しいんじゃなかったの?」
 ギクッとなる絢子。目を逸らしながら、
「ごめん、嘘ついた……」
「用事があるってこと?」
 絢子は頷く。
「私、人前に出るのって苦手だから……ほら、美大でもチカ以外の誰かと仲良くしてるの、見た事ないでしょ?」
「そうだっけ?」
 チカはあっけらかんとしている。
「まぁ、あんたは気にしないタイプだよね」
 と呆れ気味の絢子。
「だからお店に立つのは無理だなって思って、ちょっと嘘ついちゃったの……ごめんね」
「そうだったんだ……」
 とチカは絢子の手を握り、
「ごめんね、人前苦手なのにビラ配りして貰って」
 と頭を下げる。
「いや、いいから」
 と絢子は手を振る。
「ついでだし、他に何か手伝えることある?」
「いいの?」
「あまり大変じゃなかったらね」
 チカは微笑み、
「それじゃあSNS! 今朝撮った写真とか、ネットにアップして宣伝させて! 頼むのつい忘れちゃってて」
 絢子も微笑み、
「分かった。ついでにもうちょっと写真撮ろ」
「インスタ映えしそうなやつね!」
 と二人は立ち上がる。

「ちょ、私なんかでいいの⁉」
「いいんだって、かわいくポーズとってよね」
 とチカの肩掛けバッグにストラップをつけ、ポーズを取らせる。
 それをSNSに掲載し、反応を待つ。
「イイねしてくれたの、盛り上げようの会の人たちばっかりだ。身内ばかりだと寂しいなぁ~」
 と言いつつも、チカは嬉しそうにはにかむ。

 午後五時。一日目のイベント終了時間となった。結局品物は半分近く人の手に渡り、チカはご満悦であった。
「これだと、明日も楽勝だね」
「また調子にのって」
 と絢子はチカを諫める。
「それもこれもジュンちゃんのおかげでだよ。私、パソコン苦手だからあんな広告作れないもん」
「……そう?」
 絢子の表情が陰る。
「仕事で身につけただけだけどね。本当にやりたいことじゃなくても役に立ててよかった」
 チカは絢子の顔を覗き込む。
「ジュンちゃん、今でもキャラクターを描く仕事に就きたいの?」
「……」
「でも、すごい事だと思うよ。誰でもマネできることじゃないもん。少なくとも私は助かっちゃったし!」
 何も言えない絢子、ふと目の前の曳山博物館を見詰める。
「そういえばまだ二年しか経っていないんだね……」
 チカも博物館を見る。
「連れてきて貰ったね。お泊りのついでに」
 絢子は急に噴き出し、
「あの時はビックリしたよ。家のお仏壇見て、急に作っているとこ見たいって言いだしてさ。ウチの伯父さん紹介して……四回生に上がる前にもう美大辞めてたんだもん」
「やりたいことあるなら、早い方がいいかなって思って」
「その思い切りの良さが羨ましいわ」
「ジュンちゃんのおかげだよ……おかげで毎日楽しくやっているから」
 息を飲み、言葉が詰まる絢子。
「は、早く片付けよ!」
 チカはクスッと笑う。
 すると突然背後から、
「よぅチカちゃん、頑張ってるかぁ?」
 と二人は振り返る。そこには五人連れの若い男女が佇(たたず)んでいた。
「あ、皆さん。御無沙汰しています!」
 とチカは頭を下げる。
 ハッとした絢子は表情が強張る。

カバかもん
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カバかもん

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