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わたしたちは横断歩道を渡り、豊公園に足を踏み入れる。
琵琶湖の沿岸に向かう群衆が長浜城下をさらい、茂みに潜む虫の声は霞んで聞こえる。わたしたちは人の流れに従い、豊公園のどこに辿り着くかも定めずに歩き続ける。
わたしは何某くんに訊く。
「すごい人混みだけど、花火観られそうな場所ってあるのかな」
「うーん、この様子だと立ち見になるんじゃないかな」
何某くんは言う。
「ていうか、実はぼく、豊公園に来るの初めてなんだよね」
「あっ、そうなの?」
「うん。誘っておいてごめんね」
ははは、と何某くんは笑う。
「親がいわゆる転勤族でさ、そもそも長浜に馴染みがないんだよね。しかも電車通学だから、このあたりの地理も詳しくないし」
「ふうん……嫌じゃなかった?」
「嫌って?」
「だから、何回も学校変わったり、住む場所変わったりするの」
「んー……どうだろう」
何某くんは困ったように頬を掻く。
「石田さんはどうだったの?」
「わたし?」
「石田さんも今の高校に転入してきたんでしょ?」
「…………」
わたしの場合は、転入ではなくて転生なのだけれど。
いや、本当に転生なのかもわからないけれど。
いずれにせよ。
「わたしは嫌だったよ」
わたしは言う。
「だって、そうでしょ? 自分の都合でもないのに、今までとは違う人生にいきなり放り込まれてさ。おまけに、長浜に住むなら、長浜のこと好きじゃなきゃ駄目って感じがするのも、正直気に食わないし」
生まれた土地が長浜だったからって、長浜を好きにならなくちゃいけないの?
わたしは石田みつなり子(仮)として生まれたからには、長浜を好きにならなくちゃいけないの?
己の存在価値にかけて。
わたしが長浜に執着しても、長浜はわたしを利用するだけなのに。
「そっか。でも、ぼくは楽しかったよ」
何某くんは言う。
「友達と離れるのは悲しいし、慣れない環境だと緊張するけど、新しい出会いがあるのはいいことだと思うよ」
一期一会っていうのかな、と何某くんは言う。
「ぼく自身、期待してるんじゃないかなあ」
期待。
おじさんの言葉と重なる。
わたしは心臓を穿たれたような感覚を覚える。
「あっ、着いたみたい」
何某くんは前方を指さす。
並木道を抜けた先で、琵琶湖が悠然と寝転がっている。