10
帰り道、わたしは夜風に背中を押されながら、大谷くんの話を思い返す。
人を好きになるのには相応の理由があるのかもしれないけれど、一目惚れというのはむしろ逆なのかもしれない。
理由があって好きになるんじゃなくて、好きになったからその理由を探してしまう。
結果だけでは納得できないからこそ、安心できる説明を求めてしまう。
それはひどい不条理で、神様を訴えたくなるような話だけれど、それってわたしたちがこの世界に片想いしているだけなのかもしれない、とわたしは思う。
思案を巡らせているうちに、商店街に到着する。おじさんが自宅の前で腰を下ろしているのが見える。おじさんはおそらくわたしを待っている。
わたしは緊張しながら近寄る。
おじさんがわたしに気付く。
「よう」
おじさんは立ち上がる。
「花火、観に行ってたのか?」
「……うん」
「一人で行ってたのか?」
「ううん。友達……とたまたま会って……?」
「何で疑問形なんだよ。ひょっとして、男友達か?」
「えっと、まあ……かな?」
「まじかよ」
おじさんショック、とおじさんは顔を手で覆う。
大谷くんとは実質的に初対面だったから、厳密には友達とたまたま会ったとは言えないとわたしが考えているうちに、どうやらおじさんは勝手に想像を膨らませたらしい。
「元気になったんならいいけどよ」
おじさんは言う。
「途中で連絡くらい入れろよな。気まずいのはわかるけど、普通に心配するだろ」
「うん……ごめんなさい」
「……夕食、まだ済ませてないんだろ。早く入るぞ」
「あ……ちょっと待って」
わたしは言う。
「一つお願いがあるんだけど、いい?」