噂の真相
リリエはマリコが父親のことを知っているかもしれないと期待した。しかし話を遮って質問すると怒られることを学習したので、また後で訊ねることにした。
「この長浜にはな、歴史人が現代人と混ざって生活をしておる。私は昔から歴史人を見極めることができてな」と話し始めた。「え、歴史人?生活してるってどういうことですか?」とリリエは疑問を投げかけた。「そのままの意味さ。昔この地で生活したり思い入れがあったりした人々が、蘇って住んでおる。ただ一度は亡くなっているからな。若干浮いていたり、体の一部が離れて置いてけぼりになっていたり、こういった現象を見つけた現代人から広まって噂になっているのだろう」淡々と答えるマリコに、「え!つまり幽霊ってコトですか?」とリリエは尋ねた。彼女の目は驚きで瞬きできず乾きそうだが、彼女の探究心はゴウゴウと燃え上がっている。マリコは話を続けた。「まあそんなイメージだ。いつから存在するのか定かではないが」「へえー、いつの時代の人々なんですか?」「それもはっきりしないが恐らく弥生時代と思われる者もおったし、ここ数年に亡くなった者も私は見た」「どんな身分の人々なんでしょう?偉い人とか?!」とリリエが興奮し出した。「さあな、一般庶民が殆どだろう」とマリコはさっぱり答えた。しかし、直後に「だが」と一旦言葉を止めると「ある歴史人が青い顔をして話したことがある。とんでもない方が蘇ったものだとな」とひっそり話した。「その人は誰だったんですか?まさか豊臣秀吉とか!」と、リリエの興奮度はマックスになり、緑色の毛が暴れている。「まさか。そんな偉人が居たら気づかん筈がない。まあ、そのとんでもない偉人を見た者はもう居ないようだし、今となっては迷宮入りだな」と、マリコは椅子に背を持たれかけた。「じゃあ私、その真相を確かめます!」とリリエは急に走りだそうとした。「おい待て!」とマリコが止めようとすると、リリエは少女とぶつかりそうになった。「す、すみません!」と顔を上げると、若くて可愛らしい少女が大きなお腹を押さえて立っている。「マリばあ、また変な話してるのね」と少女は呆れ顔だ。「変な話だと?全くアリサは何にも分かっとらんな。子どもがもうすぐ産まれるというのに」「もう、外でも説教はよしてよ」と、口うるさいマリコに少女はうんざりな顔をしている。すると「マリばあに捕まってたんですね?私は孫のアリサです。聞いたこと本気にしないでくださいね」とニッコリ笑って彼女は言った。「いえ、とっても興味深いお話を聞けました!これから確かめようとしていたところなんです」とリリエが言うと、「一体どこをどうやって確かめるいうんだ」とマリコに指摘された。「あ、そうか」と我に返ったリリエだったが、そこでアリサが二人の会話に割って入った。「調べても何も出てきませんよ、そうでしょ?マリばあ。あなたも観光なら、時間は有効に使った方がいいわ」とリリエにアドバイスした。だがリリエは構わず「昔の偉い人がこの地に住んでるかもしれないんですって!」と目を輝かせると、その目を見たアリサの表情が変わった。「ん?あなた・・・」と、真剣な顔で鋭くリリエの目を見つめる表情は、マリコからの遺伝のようだ。数秒じっとリリエから目を離さずにいたが、何かを悟ったように彼女は目をつぶった後、顔を上げて態度を一変させた。「せっかく遠くから来たんでしょうし、ぜひ私の家に来てください。おいしい名物もありますから。一旦休憩して考えてみたら?」と食べ物に釣られて「いいんですか?じゃあ喜んで!」とリリエは即答し、アリサの家へお邪魔することとなった。