追いかけっこの始まり
三人が向かっている先は、アリサの家だ。途中、大きなお腹を抱えて早く動けないアリサだったが、それでも何とか見えてきた。すると入り口には人が集まっているようだった。それを見てアリサが「リリエ、少し離れて隠れていて!」と小声で指示を出した。リリエは「分かった!」と言われた通りに、様子が見える位置で建物の陰に隠れた。どうやらアリサの父親やマリコ、それに他にも人が集まっているようで何やら騒がしい。そこへアリサとジョウが近づいていく。「アリサ!どこへ行ってたんだい、みんな心配してたんだよ!」とマリコ。「ごめんなさい。琵琶湖へ夕日を眺めに行ってたの」と言うと、父親が「こんな暗いのに危ないだろう。全くおまえは、迷惑をかけてばかりだな。親戚中が集まって探し回ってたんだぞ」と、アリサを叱りつけた。その親戚のうちの一人が「アリサちゃん、無事で良かったよ。ところでその人は誰だい?」と、怪しい人間を見るように尋ねた。「みんな、今まで黙ってたけど紹介するわ。この人はジョウさん。お腹の子の父親よ」と、アリサは遂に言った。この状況を見ていると、主人公が犯人を当てる場面と重なって、リリエは刑事ドラマでも見ているかの様な気分だった。もちろん主人公がアリサで、犯人はジョウだ。
一瞬、その場が凍りついた。「何だと?こいつはどこのどいつだ!」と父親が怒鳴ると、ジョウはいきなり頭を下げて「娘さんをくださあい!」と叫んだ。「何言ってんのあの人!ふざけ過ぎでしょ、信じてもらう気あるの?!」と、物陰から見ていたリリエは思わず苛立った。するとマリコが「ん?おまえさんもしかして、現代人ではないな?一瞬だが、歴史人のオーラを感じたぞ・・・!」と、ジョウの正体に気づいた様だった。思わず「うっ」と唸ってひるむ彼を囲って、その場がさらにざわついた。「な、何だと。そんな存在が本当にいるなんて」「私は信じないわよ!」と親戚中が口々に言う中、マリコは「アリサ、その子どもを産んではいかん。現代人と歴史人との間に子を設けるなど何てことを!どんな存在が誕生するか分からんぞ。現代と歴史とのバランスが崩れて、長浜が崩壊してしまうかもしれん」と鬼の形相をして言った。「何いってるのよマリばあ!この子はマリばあとも血が繋がってるのよ?邪魔はさせないから!」とアリサが必死に対抗すると、マリコは「それならその歴史人のガラス細工を破壊するまでだ!どこかにあるのだろ?」と辺りをキッと見渡した。「まずい、見つからないようにしないと・・・!」と、リリエはヒヤッとして身体を完全に建物の陰に隠した。マリコは「そやつはただの歴史人ではない。他の者より強い力を持っとる。実際、私が歴史人だと気づかなかったのだからな」とジョウを睨みながら言うと「よく分かりましたねおばあさん。それじゃ・・・逃げます!」とアリサを抱えてジョウは走り出した。「待て!みな追うのだ、逃すんじゃない!」とマリコが叫ぶと、親戚は口々に「本当か分からんが、あんなやつがアリサちゃんの相手だなんて許せん!」「長浜が危険なら、アリサちゃんには悪いが大人しく言うことを聞いてもらうしかないな」と、二人を追いかけ始めた。その後ろでアリサの父は「歴史人だか何だか知らんが、私は認めんぞ・・・!」と静かに怒りを爆発させ、拳を震わせていた。
陰に隠れていたリリエだったが、騒がしい声と足音が近づいてきているような気がした。「まさか・・・」とゆっくり顔を出すと、ジョウがアリサをお姫様抱っこしてこちらへ向かって走ってくる。しかも、大量の親戚を引き連れて。「やっぱり〜!」と泣きそうなりなが言うと、ジョウが「早く逃げろー!」と必死な顔で叫んだ。リリエも一緒に走り出し、「どこへ逃げればいいの?!」とジョウに聞くと、「とにかく今は真っ直ぐ走れ!距離を離すんだ。相手は年寄りばっかりだからな、縮められるんじゃないぞ!」と息を切らしながら言う。「何か考えはないの?そういえば大型二輪は?!」とリリエが期待してジョウを見ると、「持ってる訳ないだろ!免許すら持ってないんだぞ!さっきの話ちゃんと聞いてたのか?!」と言われて「頑張るしかないか〜」とリリエたちはひたすら走った。